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YIDFF 2017 アフリカを/から観る
コンゴ川 闇の向こうに
ティエリー・ミシェル 監督インタビュー

敵の懐に入り込む映画作家の戦略


Q: コンゴ川をさかのぼりながら映画が進行しますが、どのように撮影したのですか?

TM: 撮影は、困難を極めました。はしけなどの公共交通機関を使いましたが、機材のほかに発電機や大量の飲料水を積み込む必要がありました。当時は、政府軍と反乱軍、民兵組織の「マイマイ」などが入り乱れる紛争の真っただ中です。コンゴ人のアシスタントは、地域によって言語が違うし、他勢力の支配地域では同じ人を雇えないので、7回も変えました。ベルギーのスタッフを連れて行けない地域もあり、時系列で撮影することは不可能でしたので、撮りためたものをパズルのように組み合わせて映像をつくりました。

Q: 後半になると、コンゴ川の奥地に入り緊張感が高まります。マイマイの支配地域での撮影は難しかったのでは?

TM: 撮影をした森の中に入ることができるのは、マイマイの一員になった者だけです。水と血と剣と火を使った儀式を受けた者だけが、その組織の中に入り、秘密に触れることができるのです。映画でご覧になられたように、彼らは良心の呵責もなく、女性への性的暴行を正当化します。その姿を撮影するには、組織の中に入らなければなりません。私がよく使うたとえ話に「リンゴの中にいる虫」があります。自分自身であることを忘れて中に入り込むこと。これが映画作家の戦略であり、私が30年にわたって世界各地で行なってきたことです。友人を撮影するのは簡単です。いかに敵を撮影するかが大切なのです。

Q: でも、そうして撮影した作品を発表したら、彼らに恨まれて二度と同じような撮影ができなくなるのではないですか?

TM: そうは思いません。私は、彼らにもう一度会うことができると考えています。彼らの言葉を裏切ることはしていないからです。25年前に、ブラジルで麻薬組織のギャングを撮影しましたが、2年前に出所した彼と再会しました。マイマイの酋長とも再会は可能です。私は、作品の中で彼らを決して裁きません。善や悪を判断するのは観客であって、私が判断するのではありません。

Q: 映画の最後には、コンゴの未来に前向きなメッセージを受け取りました。制作当時(2005年)と状況は変わりましたか?

TM: 当時は和平協定が結ばれ、選挙の実施が決まっていました。ですから、平和への希望で映画を終わりたかったのです。それ以来、残念ながら状況は悪化しています。コンゴの人々は権力者とその権力闘争に裏切られています。暴力の連鎖が何年も続き、それに対して国際社会は無力なままです。

Q: 監督は、外国人という立場で映画をつくりましたが、コンゴの人々からこのような作品が生まれることは、期待できますか?

TM: 私の作品の何本かは、コンゴで上映を禁止されていますが、コンゴの人たちは海賊版などの手段で映画を観てくれています。若いコンゴ人の監督も出はじめていますが、彼らが本作のような映画を撮ることは難しいでしょう。私は何度も当局に逮捕され、強制退去させられ、司法の場で闘いましたが、いざとなればベルギーに避難できます。だからこそリスクを取ることができるのです。これがコンゴ人であれば、国外に避難したとしても、国内に残した家族に危害が及ぶかもしれません。ただ、近年までに大勢のコンゴ人ジャーナリストが殺害されているように、ジャーナリストのなかにはリスクを取る人が現れています。それは若い映画監督にも言えることです。

(構成:沼沢善一郎)

インタビュアー:沼沢善一郎、野村征宏/通訳:梅原万友美
写真撮影:野村征宏/ビデオ撮影:加藤孝信/2017-10-10