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YIDFF 2017 アジア千波万波
人として暮らす
ソン・ユニョク 監督インタビュー

「お母さん」に伝えたい彼らの心の痛みと希望


Q: チョッパンの住人が懸命に生きる姿を、とても丁寧に描かれていたと思います。彼らの姿を伝えるにあたって、映画という方法を選んだのはなぜですか?

SY: はじめ、自分が映画を撮ることになるとは、思っていませんでした。私は学生のころから、ホームレスの人たちを支援する団体に所属し、彼らを助ける活動をしていました。彼らを対象にした「ホームレス夜学」という取り組みのひとつに、「メディア教室」というものがあります。自分たちで、映像の撮影から編集までを手がけ、表現してもらう授業です。私がその授業をお手伝いしたときに出会った、パク・ジョンピルさんに映画制作を勧められて、撮りはじめました。いつかは彼らの姿を、一般の人たちに伝えたかったので、本作は支援活動の延長線上にあると思っています。

 実は、パクさんが本作のプロデュースを担当してくれていました。しかし、残念なことに、今年この世を去ってしまいました。以前、彼の映画が山形映画祭で上映されたこともあり、今回私の映画が上映されると知ったときは、とても喜んでくれていました。

Q: ホームレスの人たちと信頼関係を結ぶうえで、苦労はありましたか?

SY: その問題は、「相手をどのように考えるか」にかかっていると思います。私自身、ホームレスの人たちに対して、「怠惰だからそのような生活になったのでは」という先入観がありました。初めて会うとき、会話さえもしづらいのではないか、と思っていたことは否めません。しかし、彼らの人生を知るにつれて、先入観は自然となくなっていきました。

Q: 何がホームレス問題の背景にあると考えますか?

SY: 本当なら、ホームレスの人たちも、一緒に生きていくべき人間です。それなのに、人目についてはいけない存在だという認識を、一般の人たちが持っていることが問題だと思います。また、福祉政策の問題も背景にあります。彼ら自身で、生活の基盤をつくれるように、金銭面や制度面で支援すべきです。ところが、「彼らに投資しても無駄だ」という考えが一般的で、予算が策定されず、支援も受けられないのです。

Q: 「彼らの口になりたい」という監督の言葉が、公式カタログにあります。口になる、ということは、誰かにその声が届いてほしい、ということだと思いますが、本作は誰に届けたいですか?

SY: 「お母さん」に伝えたいと考えました。この映画を作るときに、仲間とも話し合いましたが、韓国の「お母さん」という存在は、保守的で、ホームレス問題に無関心です。一方で、人間に対する愛情はあるのです。愛情と無関心を持ち合わせているのが、「お母さん」という存在なのです。ですから、本作は、テレビドキュメンタリーのように、わかりやすい構成を意識しました。

 私は彼らを擁護し、弁解したいと思い、できるだけ、ホームレスの人たちのありのままの姿を描きました。道端で寝ころんでいたり、酔っぱらっていたり、物乞いをしたりといった一部分の姿だけで、彼らは一般の人たちから誤解されているように思えたのです。ホームレスの人たちには、そうなった経緯と事情があり、心の痛みを抱えて過ごしています。人生を怠けているわけではなく、愛情を持って、懸命に努力して生きていることを、知ってほしいのです。

(構成:薩佐貴博)

インタビュアー:薩佐貴博、大川晃弘/通訳:根本理恵
写真撮影:楠瀬かおり/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2017-10-08