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YIDFF 2017 アジア千波万波
ウラーッ!
チョン・ジェフン 監督インタビュー

アイデンティティこそが人を人間たらしめるのか


Q: 作品の、人を追いかける監視カメラのような視点に、日常の不気味さや美しさがありハッとなりました。また、独特な時間の流れも感じました。監督自身は「アイデンティティもない不思議な力を入れ込もうと努力した」とおっしゃっていますが、このような映画を撮ろうと考えたきっかけとなるエピソードはあるのでしょうか?

JJ: 友人と会っていたある時、友人のおなかがグルグルと鳴ったんです。そのしばらく後に、自分のおなかもグルグルと鳴り、そしてまた友人のおなかがグルグルと。そんなことが何回か繰り返されました。これはなんだろうとふたりで爆笑した楽しい思い出があります。おもしろい音でしたし、まるで会話しているかのようで本当におもしろくて、不思議で、楽しくて、いつか映画にしようと思いました。それ以降、自然の音、街中の音、周りから聞こえてくる音が気になりだしました。もうひとつ、人が持っている個人史、社会的な関係、情緒、すべてそぎ落とした時、人は、ひとつの動く物体になるような気がしていました。それを映画で描いてみたいと思っていました。

Q: 人が持っている関係をそぎ落として描くことで難しかったことはありますか?得られたこともあれば教えてください。

JJ: 出演しているのは、映画に出てみたいという思いを持っていた私の親しい友人です。とても親しかったことと、彼の出演の希望とがうまく絡まりあい、「色々なものをそぎ落とす」という作業はためらいなくできました。人をひとつの物体、塊として見せることに難しさはありませんでした。友人の独特なまなざしも映画の原動力になりました。そして、得られたことと言いますか、映画を撮り終わった後に、気になることがどんどん増えていきました。人とは何なのか、人が持つ力とは何なのか、人はひとりだけでも存在できるものなのか、自分の尊厳を守りながらひとりだけで存在できるのか……。気になること、得体のしれないものが増えていきました。

Q: タイトルの『ウラーッ!』にはどのような意味があるのでしょうか?

JJ: おなかがグルグルと鳴る音もそうなのですが、時々街中で人が叫ぶような声が聞こえることもあります。再現できないような変な音ですが、人が出す音としておもしろいと思いました。韓国語の原題は『歓呼の声』です。響きに力があるような感じもするし、明るい印象もあると考えて付けました。また、韓国語で歓呼の「歓」には光輝く、明るいという意味も込められています。由来は分からないのですが、1970年位に「腹の力で仕事をする」という言葉が生まれたことを、いま思い出しました。「お腹の力」には、踏ん張ってという意味も含まれているのだと思いますが、そういう言葉の意味もタイトルに影響を与えているような気がします。

Q: 監督はこの映画を「SFドキュメンタリーホラー」と位置づけていますね。

JJ: この映画では、意図的に人が持っているものを排除しています。友だち、両親、愛や人間関係、歴史など、すべてそぎ落としました。最初から撮らないつもりでアプローチしていったのです。結果、撮られたものは、そういったものが一切入っていないのでSFホラーのジャンルの形式になるのではと思いました。それで、「SFドキュメンタリーホラー」と名づけました。

(構成:安部静香)

インタビュアー:赤司萌香、安部静香/通訳:根本理恵
写真撮影:楠瀬かおり/ビデオ撮影:薩佐貴博/2017-10-09