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YIDFF 2017 アジア千波万波
パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ
チョン・ユンソク 監督インタビュー

社会の中でノイズとされるもの


Q: パムソム海賊団のふたりから、とてもアグレッシブで強いエネルギーを感じました。なぜ彼らを撮影しようと思ったのですか?

JY: パムソム海賊団の曲の歌詞がすごく良く、詩的に感じられました。彼らは、韓国の歴史的不条理などを歌います。韓国の社会に対して、また自分たちに対しても歌っているのです。彼らは、政治的であるとか、何かを打破したいというより、純粋に音楽性を追究して、楽しくやりたいと思っています。しかしながら、多くの人は歌詞や内容が聞き取れないといって、彼らの音楽をよく聞きもしないし、うるさい音楽だと線を引いてしまうことがよくあります。彼らの音楽がうるさいからといって、聞き手が背を向けてしまうことは、何かを象徴しているのではないかと思います。日本も同じだと思いますが、こういったうるさい音楽をノイズとして捉える傾向がありますよね。たとえば、韓国ではセウォル号沈没事故で多くの人々が死んでしまった際、様々な人々が街に出てデモを行いました。しかし、そういった意見をノイズのように感じる文化があるのではないかと思います。パムソム海賊団は、そういったところに問題意識を投げかけているのではないでしょうか。

Q: 映画の編集に関して、監督がこだわった点はありますか?

JY: ふたりのキャラクターを分けて考える、ということが重要だと考えていました。クォン・ヨンマンはバンドを解散しようとか、何かをバラバラにしたいという思いがある人です。チャン・ソンゴンはひとつひとつステップを踏んで、きちんとやっていく努力をする人です。どちらの面も私の中にあり、芸術家としてはクォン・ヨンマンのような態度が必要ですけれど、映画をきちんと完成させるにはチャン・ソンゴンのような態度が必要です。このふたりの友人とは6年間のつきあいがありますが、自分のアイデンティティについて思うとき、このことをずっと考えさせられてきました。

Q: パムソム海賊団が言っていることには、韓国の同世代の若者も共感しているのですか?

JY: パムソム海賊団への反応は、韓国の20代のなかで、まっぷたつに分かれています。ひとつは痛快だというもの、もうひとつは居心地の悪さを感じるというものです。映画を観た人たちは、表向きには面白かったと言ってくれるのですが、影でこっそりと悪口を言っている人もいます。悪口をいうポイントは、「お金持ちだからできる」というところに行き着くのではないかと思います。韓国社会には、ここ10年くらいの重要なキーワードがふたつあります。ひとつは「Hell朝鮮」、それぐらい生きるのが苦しい時代という意味です。もうひとつは「88万ウォン世代」。非正規社員の時給から収入を割り出した88万ウォンから、非正規雇用に追いやられた人たちを呼ぶようになった言葉です。これが韓国における青年のキーワードになっています。「88万ウォン世代」というのは、青年に対して上の世代の人たちが、いわばレッテルを貼っているような感じがあります。そして、負け組意識を与えているところがあり、青年たちは非常に怒りを感じています。問題なのが、怒りの感情のガス抜きができないということ。彼らは非正規職に追いやられてしまって、社会に抵抗しようと思っても、できない状況になっています。どこで彼らが怒りの感情を発散するのかというと、TwitterやSNSなのです。

(構成:奧山心一朗)

インタビュアー:奥山心一朗、棈木達也/通訳:田村美香
写真撮影:安部静香/ビデオ撮影:吉村達朗/2017-10-07