陳梓桓(チャン・ジーウン) 監督インタビュー
20年後もこの映画を観て、出来事を思い出してほしい
Q: 運動に参加する学生たちの日常を、つぶさにとらえた作品だと感じました。監督自身が彼らと年齢が近いことが撮影の際のアドバンテージになったのでしょうか?
CT: 撮影当時私は27歳で、学生たちと年の差があまり無く、すぐにうちとけました。彼らと仲良くなった一番のきっかけは、デモの際に彼らが警察に抗議していたとき、その場を離れず横でカメラを廻し続けたことだと思います。そこから私を仲間だと認めてくれた気がします。そして、若者の中で広く使用されているWhatsAppというスマートフォン向けSNSでやりとりするようになり、友情が深まりました。
Q: カメラを持っていたにもかかわらず、警察と衝突し監督が転倒してしまうシーンがありましたが、そのときはどのように思われましたか?
CT: カメラを廻すことがお守りや抑止力になると思っていたので、非常に残念でした。でも、私はカメラの力を信じています。というのも、自分は積極的に活動する側ではなく平凡な生活を送っていたのですが、カメラがあることで雨傘運動の映像を撮ろうと思えたからです。私にドキュメンタリーを作る意志を持たせてくれて感謝しています。撮っていくなかで起きたさまざまなできごとがどこかで交わり、ひとつの大きな流れになっていく様子を見ていたことが、制作のモチベーションにつながりました。
実は大学で政治学を専攻していて、将来は公務員になるか政治の道に進むかというところで悩んでいました。いざ卒業を控えるころになって、私は政治に関して個人ができることの限界、そして理想と現実の落差を感じてしまいました。大学院で映画を学んだ後、この運動に参加している学生たちに出会い、自分が20歳くらいのころ抱いていた「社会を変えたい」という熱い心を彼らが持っていて、それを行動に移し体現しようとしているのを目の当たりにして、懐かしい気持ちになりました。記録しようと思わせてくれたのも、カメラの存在があったからです。そうでなければ、この運動のことをすぐに忘れてしまったかもしれません。
Q: 撮影の際、こだわった部分はありますか?
CT: 基本的には、あまり映像美にこだわっていませんが、催涙弾が投げられるシーンと、中国本島の旧正月の打ち上げ花火のシーンは意図的に組み合わせました。次の作品はもう少し、映像に力を入れようと思っています。
Q: 映画のタイトル『乱世備忘』にはどのような意味があるのでしょう?
CT: 10年、20年と時が流れても、忘れられないようにという思いを込めました。中国にいる多くの人にとって、この運動は許しがたいものでしょう。しかし、中国の若者が香港に来たときにこの映画を観れば、私たちが憤っていた問題について自身で考え、もしかしたら答えが変わるかもしれません。運動自体は落ち着いたとしても、作品は未来に残り、多くの人に疑問を投げかけ続けてくれるでしょう。香港が持つ個性が次第に薄れてきているなか、香港で作られた自主映画は、香港の個性を残すための大きな役割を担っています。あまり上映される機会に恵まれませんが、作品を世に送り出し続ける必要があると思います。
(構成:吉岡結希)
インタビュアー:吉岡結希、櫻井秀則/通訳:中山大樹
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:丹羽恵莉花/2017-10-06