蘇青(スー・チン) 監督、米娜(ミーナー) 監督 インタビュー
音が表す心の世界 〜愛しき子どもたちへ〜
Q: 映像では視覚的美しさを感じ、聞こえてくる音に自然と集中させられました。かなり「音」にこだわって撮影されていると感じたのですが、どうでしょうか?
米娜(M): サウンドデザインにこだわりを持っていたので、専門技術のあるスタッフに担当してもらいました。具体的には「静かな美」、音のない中の美しさ。ドキュメンタリーには難しいのですが、音のないところから発生した音が子どもたちの心の世界や、感情を表現することを目指しました。男の子が亡くなったシーンの、木がざわざわする音や鳥の鳴き声は、まさにそれを表現しています。
Q: 映画の中でこのタイトルの『カーロ・ミオ・ベン』が3回出てきますが、実際に目の前で聴いて、どう感じましたか? また、曲名をタイトルにした理由は何ですか?
M: 彼女が歌う大人の愛の歌を聴いたとき、その表情豊かな表現力や、観衆を感動させる力に、本当に驚かされました。現実からあまりに飛躍していたからです。そして、この歌のテーマは「永遠の愛」。愛というものは皆共通に持っているものです。タイトルからそれを感じてもらいたいという意図があります。
蘇青(SQ): もともと『カーロ・ミオ・ベン』という歌が好きです。最初に聴いた時感動し、彼女ならもっと上手くなると感じたので、それを本人に伝えました。2回目では彼女の心持ちも変わっていて、この映画の観客や、撮影している私たちに聴かせるような姿勢になっていました。3回目はスタジオで録音したのですが、3回とも違っているのがわかりますよね。タイトルに悩むことは、ありませんでした。彼女の歌を聴いたときに、自然とこれでなくてはいけないと思いました。プロデューサーを含め、満場一致でタイトルは決定しました。『カーロ・ミオ・ベン(愛しき人よ)』の「私たちの愛しき人」とは子どもたちです。彼らに親しみをもって、このタイトルにしたというのもありますね。
Q: 撮影期間中、彼らとどのような距離感と関係で、撮影していたのですか? また、3人の少女にスポットを当てられていましたが、それに理由はあるのですか?
SQ: 最初は名前を聞くことからはじめ、会話を重ねました。私たちが友達を作るときと同じですね。2年くらいは親しくなれませんでした。親しくなっていくなかで、彼らの持つバックグラウンドも聞きました。編集するまでに5〜6人の子どもに絞り込みましたが、結局焦点を当てることになったのは3人でした。
Q: どのような過程を経て、ひとつの作品が完成したのですか? また、共同監督ということで、お互いの役割などはあったのですか?
SQ: 私は主に撮影を担当しています。私の個性は、発見する力だと思っています。人の感情の世界、内面に入り込むのが得意なのです。この内面を映し出すことで、映画としてのリズムが生まれます。それからミーナーから意見が出され、構成を含めすり合わせています。
M: お互いの持っている個性を、どこでどう出すかが重要です。性格も違うし、意見が食い違うこともあります。それを前に進めていくのは、お互いの信頼関係です。過程は順風満帆ではありませんが、1+1=2以上だと思っています。それが2ならひとりでいい。ふたりだからよりいいものができると思っています。
(構成:田寺冴子)
インタビュアー:田寺冴子、黄木可也子/通訳:樋口裕子
写真撮影:楠瀬かおり/ビデオ撮影:中根若恵/2017-10-08