アンナ・ザメツカ 監督インタビュー
家族のなかでもがく「アダルトチャイルド」たち
Q: この家族と出会い、映画を制作することになったきっかけは何ですか?
AZ: オラたちに出会ったのは偶然で、父親のマレックを駅で見かけて、その様子にすごく興味を惹かれたので、話をして家族に会うことになりました。実は私自身も、幼少期に両親の代わりに弟の面倒をみる、というような体験をしていました。この「子どもなのに大人のような責任を担わされる」ということを「アダルトチャイルド」と私は呼んでいます。自分の経験から「アダルトチャイルド」 に興味を持っていました。そこで、この題材で、最初は長編ドキュメンタリー映画ではなく、短編のドラマを撮りたいと思っていたのです。映画の作り手には、ある意味、自分の作品で自分を癒すというか、探求することがあると思います。私にもそういう感覚がありました。オラとは家族の状況も違うし、オラほど大変な責任を背負っているわけではなかったのですが。
Q: 短編のドラマを撮るつもりが、なぜこの家族の長編ドキュメンタリー映画を撮ることになったのですか?
AZ: この家族に出会って、内面も外面もとても美しいと思いました。その美しさに魅せられ、短編ドラマではなく、長篇ドキュメンタリーでこの家族を撮りたいと思いました。そしてさらに、映画を撮るきっかけとなった出来事があるのですが、それはオラの言葉です。当時12歳だったオラに初めて会ったとき、私が「お母さんはどこ? 何をしているの?」と聞くと、彼女は「今は別居をしているけれども、お父さんがお風呂場を改装したらきっと帰ってくる」と答えました。母親は家を出てからすでに6年たっていたのですが、オラは母親が帰ってくることを信じていたのです。その切ない言葉を聞いて、私は、家族のなかに存在する、物理的には家にいない母親が、まるで幽霊のように感じられました。オラだけではなく、みんなが母親を待っていました。私はその時点で、映画のなかで母親の存在をどう見せるかが挑戦だと思ったことを、覚えています。
Q: そこから撮影に至る過程はどのようなものでしたか?
AZ: 彼らの個性は撮影するうえで申し分なかったのですが、ドキュメンタリー映画であっても、核となるストーリーが必要だと思いました。そして、1年以上かけて、そのストーリーを探すという意味で、家族と接しました。ただもちろん、こちらが何かを作ってしまうと、心理的なリアリティは出てこないと思ったので、私が物語を作るということはしませんでした。彼女たちの夢は何なのか、何を必要としているのかということについて話し合いました。
Q: 家族の問題をとても自然に、現実的に描いていたと感じました。どのように家族との関係を築いたのでしょうか?
AZ: 私たちの間には監督と撮られる対象という関係がありましたが、やっぱり大切なのは映画を超えて、人と人との関係性だと思うのです。言葉を超える何かがないとだめだと思うし、それが私たちの場合はありました。常に家族に対して、尊敬の心を持って接していましたし、特にオラとは話し合いを重ねて、彼女の状況の理解を心掛けました。ニコデムの場合は、会話をすること自体難しかったのですが、しかし心の部分で、とても近いものを感じていました。ある意味、オラよりも近いものを感じたように思います。
(構成:永山桃)
インタビュアー:永山桃、赤司萌香/通訳:松下由美
写真撮影:キャット・シンプソン/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2017-10-10