チコ・ペレイラ 監督インタビュー
動物と人間の友情を描いた冒険の物語
Q: 自由にありのままに生きることに対して、どのような思いを込めてこの作品を撮ったのでしょうか?
CP: この映画は動物と自然の関係を描いています。叔父のマノロは動物と人間は同等の存在だと考えていて、自然に寄り添い、簡素な暮らしをしています。しかし彼はテクノロジーを否定しているのではなく、必要な点ではテクノロジーを利用しています。旅行社に電話をするシーンがあったのですが、ロバと旅行したいと言ったら断られてしまいました。そのシーンなどで、街の人と彼のどちらの視野が広いのか考えさせられると思います。
Q: マヌエルさんは「昔からの憧れ」とおっしゃっていましたが、彼にカメラを向けることは監督にとってどういうことだったのでしょうか?
CP: いい質問ですね。マノロとは25年間疎遠で、子どものころは叔父さんに悪口を言ったりしていました。映画で観ると彼は背が高いように見えますが、実際は小柄で、僕の子どものころの目線に合わせて撮っています。当時の僕たちがそういった憧れの目線で見ていたということを、表現したいと思って撮りました。
Q: マヌエルさんがスペインからアメリカまで旅をすると決めたのは、とても大きな決断だと思います。彼の思いや決断を撮るときに、こだわったところはありますか?
CP: フランスの映像作家が「映画を撮っている間は、完成するまでいい映画になる保証はない。しかし、映画を作る過程を楽しむことはできる」と言っていました。その通りで、プロセスのほうが完成したものよりも大事かもしれない。今回のマノロのこともそうかもしれないと思っています。僕の家族を巻き込んで制作したこの映画は、家族を再会させてくれた仲介役とも言えます。映画を通して話すきっかけが生まれました。
Q: いざ映画を撮るときに、マヌエルさんはどんな反応をしていましたか?
CP: 今まで疎遠だった僕たちが、叔父さんを慕っていたということが驚きだったと思います。実は、彼はアメリカへ行くことを躊躇したかもしれませんが、「そのように言ってくれて一緒に過ごせるんだったら」と言ってくれました。アメリカへ行くことは、映画に方向性をつけるという意味では象徴的でしたが、叔父さんの足の痛みもあったので、果たしてそれが大丈夫なのか、そういった点では気をつけなければなりませんでした。
Q: ロバの目線で撮ったり、目の前の光景を対比させていたり独特なアングルで画面を見せていたように感じたのですが、何か意図があったのでしょうか?
CP: フォーカスをずらしてぼかすような表現を使いました。画面をぼかすことで、目を閉じたときの音への集中を表したり、あるシーンでは、ロバは耳が大きいから、全部聞こえてるんじゃないかと、ロバが聞く音の感じを意識したりと、音と視覚の効果を模索しました。
Q: この映画は監督とマヌエルさんにとっての「最大の冒険の物語である」とおっしゃっていましたが、『ドンキー・ホーテ』というタイトルに込めた思いや、観る人に届けたいメッセージはありますか?
CP: これはロバとスペインの文学の『ドン・キホーテ』を融合した言葉です。ドン・キホーテという人物は大きな夢を持っていますが、叔父さんもそういった夢を持っているということと、動物と人間が同等であるということ、動物と人間の友情を描きました。タイトルがキャッチーで覚えやすいこともあったのですが、「時代に置き去りにされた人」という意味も込めています。
(構成:丹羽恵莉花)
インタビュアー:丹羽恵莉花、安部静香/通訳:松下由美
写真撮影:名畑文草/ビデオ撮影:松口悠/2017-10-09