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YIDFF 2013 特別招待作品
ぬちがふぅ ―玉砕場からの証言―
朴壽南(パク・スナム) 監督インタビュー

奪われたアイデンティティを取り戻す旅


Q: 前作の『アリランのうた オキナワからの証言』では、監督ご自身の過去を探るために映画を制作され、韓国に渡られていますが、今回はなぜ沖縄を舞台にした作品を制作しようと思われたのですか? また、以前は書物も執筆されていますが、今回も記録の手段として映画を選ばれたのはなぜですか?

PS: もともとは、沖縄戦の事実を暴こうとしていた訳ではありません。前作を撮ったのは、自分の父のことを知りたいという思いからでした。その取材をしていくうちに、沖縄戦の事実に辿り着き、この作品を制作しようと思いました。つまり、沖縄戦とは何だったのかを知ることは、自分自身が何なのかを知る旅、私の奪われたアイデンティティを取り戻す旅でもありました。こうして取材をしていると、書かれたことだけが真実ではないということに気がつき、映像で記録するほうが、説得力のあるものになると考えました。

Q: この作品で描かれているような過去のことを、口にしたくない方も多くいらっしゃると思いますが、どのようにしてこのような証言を得たのですか?

PS: 彼らの家に突然訪問して「話を聞きたい」と言ってもそれは無理なことです。そこで、まずは島の方々に自分の兄や姉の話をして歴史を共有するようにしました。沖縄の言葉で“いちゃりばちょでぃ”という言葉があります。これは昔から島に伝わる言葉で“会えば皆兄弟ではないか”という意味です。私が自分の父や兄弟の話をすると、取材した方々は皆このように言ってくださり、「このような取材は今までで初めてです」と私を歓迎してくれました。同じ人間として痛みを共有することができたおかげで、今まで語られることのなかった真実に辿り着くことができました。さらに、今回の作品では、最後に登場する従軍慰安婦の女性たちの事実はあまり描かれていませんが、現在制作中の次回作は、新たな証言も得られたので、一歩踏み込んだ作品になる予定です。

Q: 撮影をするうえで、特に大変だったことは何ですか?

PS: 取材をするにあたり、事前調査をしようと試みましたが、沖縄戦の事実が書かれた資料がほぼありませんでした。事実を知るためには、人々に直接話を聞くしか術がなかったのです。例えば、戦車体当たり作戦の事実や、その戦力として大量の韓国人が使われていたということは、もちろん資料には残っていません。このように、どこにも記載されていない事実を追うことは大変でした。

Q: 現在の日本には、この作品で描かれている事実を知らない若者も、数多くいると思いますが、その現実に対してどのように思われますか?

PS: 今の若者が、こうした事実を知らないということは、隠蔽された日本の歴史があることや、教科書検定のニュースから知っていました。自分の国で起きたことを知らないというのは、かつて歴史と文化を奪われ、沖縄に連れてこられた韓国の人々と同じだと思います。日本で何が起こったのかを知ることは、日本人としてのアイデンティティを確立することだと思うのです。これからの日本と韓国を考えたときにも、やはり過去を知るということは、大切なことだと思います。

(採録・構成:山崎栞)

インタビュアー:山崎栞、加藤法子
写真撮影:加藤孝信、加藤法子/ビデオ撮影:加藤孝信/2013-09-28 神奈川にて