english
YIDFF 2011 ニュー・ドックス・ジャパン
釜の住民票を返せ! 2011
金稔万(キム・イムマン) 監督インタビュー

不可視のことを可視化するのが、ドキュメンタリーの使命!


Q: 当時の報道では、釜ヶ崎の日雇い労働者の住民票を悪用する人間の存在などと、一緒に扱われていました。私は詳しく知らず、映画を拝見して驚きました。どうして、住民票消除問題を取材することになったのですか?

KI: 以前からひとりで撮影活動をしていましたが、2006年末にドキュメンタリストの布川徹郎氏と出会いました。そして、釜ヶ崎で年末年始に、日雇い労働者へ炊出しなどの支援をする“越冬闘争”の撮影に誘われました。そこで中崎町ドキュメンタリースペースの佐藤零郎と出会い、 彼が撮影していた長居公園の野宿者強制排除のことを聞きました。(YIDFF 2009で上映の『長居青春酔夢歌』)そして、解放会館の住民票消除も執行時期が近いと知り、記録しなければと思いました。

Q: 撮影の時に意識していたことはありますか?

KI: “客観的に撮る”ことでした。でも、釜ヶ崎は多くの労働者が集まる場所なので、 いろんな出会いがあり、自分たちも支援者になってしまいました。

Q: 今年、支援者が釜ヶ崎の人たちを選挙へ誘導して、警察に逮捕されたそうですね。その中に佐藤零郎さんもいて、威力業務妨害で家宅捜査をされ、録画したテープまで押収という、表現の自由を脅かす行為がありましたが、どのように感じましたか?

KI: とても驚きました。僕も含めて9人逮捕、4人が起訴になり約100日勾留されました。最初はそのことも映画へいれようと考えましたが、現在裁判中なので無理でした。役所側は選挙の妨害と考えたようです。これは震災・原発以降の、役所側都合の歪んだ危機感の表れのように感じます。以前は、解放会館に住民票をおくことを認めていました。

 今回は、マスコミの報道にあおられたことがきっかけになって、国民を厳格に住所で管理するという方針の中で、解放会館に住民票をおくことが問題となったんでしょう。住民票の移転先を用意するとか、代替案の説明があれば混乱しなかったと思います。

Q: 選挙権の行使が、住民票を復活する方法になると、労働者たちには理解されていたのですか?

KI: 最初の頃は、選挙ができず労働者たちも抗議していました。時間が経ち温度差はありましたが、市民社会の当然の権利を取り戻す意味で、理解はされていました。あの場面で、在日外国人の参政権問題をはさんだので、経過が分かりにくくなりましたが、釜ヶ崎には在日外国人も多く住んでいるので、必要だと考えました。

Q: 最後のシーンで、釜ヶ崎の人たちが、原子力発電の作業に行っているのが報道で大きく取りあげられていました。嘘の求人内容で、安全性の説明もなく、安い賃金で行っているのを知り衝撃を受けました。

KI: 電力会社は日当を5万円ほど払っているのに、間に何人もの手配師が入って搾取し、労働者が手にするのは1万3千円くらいです。しかも、ひとりが浴びる放射線量の限界が決まっているので使い捨てですから、ひどい話ですよね。

(採録・構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり
写真撮影:柴田誠/ビデオ撮影:柴田誠/2011-09-16 大阪にて