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YIDFF 2011 ニュー・ドックス・ジャパン
さようならUR
早川由美子 監督インタビュー

終の住処と、人生と、UR都市機構


Q: 高幡台団地を取り上げたきっかけは?

HY: そもそも家賃はどうしてこんなに高いのかという疑問があって、住宅問題の集会に参加していました。そこで高幡台団地73号棟の人たちに出会ったのがはじまりです。情報公開請求の仕方や、大家さんが家賃を受け取らない場合にどうするかなど、“普通”の人たちが追い出しに直面して戸惑いながらも、話し合い、ひとつずつ解決していこうとしていました。低廉な公共住宅から追い出される高齢者の姿が、プータロー状態の自分の将来の姿と重なり、窮地に立たされることで次第にメンバーの結束力が増し逞しくなっていく過程に惹かれていきました。

Q: 複数の人へのインタビューで映画を構成した意図は?

HY: 高幡台団地の問題については、様々な立場の人の思惑が複雑に絡まっているので、住む人、国の政策を考える人といった、複数の立場からの視点を取り込んで映画にしようと思いました。インタビューでは、その人なりの考えを語ってもらいたかったのですが、なかには専門家の意見を引用してまで私を論破しようとする人もいます。「正しい意見を求めているのではありません。生活の範囲で、思ったことを」と伝え、「自分の言葉で語りましょう」という注意書きを机の上に置いてインタビューしたりもしました。ずいぶん図々しいことをしたとも思いますが、私はその人らしさをつかもうと必死でした。

Q: 演歌が流れてくるシーンはユーモラスでした。

HY: この映画では演歌を使いたいとはじめから思っていたのですが、ちょうど取材に行った住民の方が、家の中でカラオケをはじめ、高幡不動の演歌があるよと教えてくれました。URは耐震不足だからと住民を追い出そうとしているのに、その建物よりもっと古い物件を平然と斡旋したりしている。その様が滑稽で、それを演出するのにあの演歌がぴったりだと思ったのです。私は、自分でつくる映画には好きな音楽を使いたいと、音ハンターみたいにいつも音楽を探しています。映画の予告編には、渋谷の路上でバイオリンを弾いていた人の音楽を使わせてもらいました。

Q: 団地に住み続けるために裁判を闘う住民だけでなく、引っ越していく住民も映りますね。

HY: 大抵の人にとって、団地を出るか出ないかはギリギリの選択で、気持ちは49対51で迷い、それも日によって変わるほどなのです。居続けて闘うのも、引っ越すのも、どちらもつらい。生まれは満州とか、沖縄戦で命からがら逃げたという住民の話も聞きました。戦争によって住む場所を変えられた人たちが、今また人生の終盤になって、団地を削減するという国の政策で住まいを追われている。団地から出る、出ないということではなくて、人がどこに住み、どこで終わるかということが、国の思惑によって変えられてしまうということを伝えたかったのです。今はもう撮影はしていないのですが、ミーティングや法廷には足を運んでいます。URつまり国の決定を覆すのはかなり大変なことなので、普通に闘ったら力の差で負けるのは明らかです。しかしこの問題は、高幡台団地73号棟の人たちだけの問題ではない。世論が盛り上がったら勝ち目もあるのではないか。そういう思いもあって、裁判が決着する前に映画を完成させました。これからこの映画をなるべくたくさん上映したいと思っています。

(採録・構成:新垣真輝)

インタビュアー:新垣真輝、花岡梓
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:花岡梓/2011-09-25 東京にて