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YIDFF 2011 ニュー・ドックス・ジャパン
ちづる
赤﨑正和 監督インタビュー

妹のことを言えなかった自分を変えたい


Q: なぜ、妹の千鶴さんにカメラを向けようと思ったのですか?

AM: 大学の卒業制作として映画を作るときに、漠然と「障がい」をテーマに撮ろうと思っていました。それはもちろん自分の妹に知的障がいがあったからで、担当の先生(池谷薫)にも「妹を撮ったらどうなんだ」と言われたのですが、僕は嫌でした。というのは、小さい頃、障がい者を差別する言葉が流行ったことがあって、そのときの経験から、妹のことは他人には言いたくない、という思いが自分の中にあったからです。でも実際には、妹に関するおもしろいエピソードや出来事はたくさんあって、それを伝えたいという気持ちもありました。言葉で「ウチの妹は障がいがあって……」と言うと重くなるのですが、映像で伝えられたら、今まで妹のことを言えなかった自分を変えられるのかな、自分を変えたい、という思いで作りました。

Q: この映画には監督自身や母親である久美さんも出演されていますよね?

AM: 僕は妹だけを、特に障がいの特徴的な部分だけの映像をつないでいこうとしていたのですが、先生は最初から「これは家族の話だ。母親とお前が入らないとダメだ」と言っていて意見が合いませんでした。ある時、僕と先生が言い争いになりお互い黙ってしまって、もう(卒業制作の完成は)ダメかもしれないと思った時に、先生に「なぜお前は障がいにこだわるのか、差別しているのはお前ではないのか」と言われて、その言葉にハッとして、僕こそが妹を「障がい者」という枠の中に閉じ込めて、ひとりの人間として見ていなかったということに気づきました。僕自身や母を意識的に作品の中に入れていったのはその後です。障がい者としてではなく、家族の一員として妹のキャラクターを撮る、というように方針を変えると、そうするのが自然だと思えるようになったのです。

Q: 『ちづる』は大学での上映に始まり、映画祭への出品や劇場公開もされることになりましたが、公開規模が大きくなっていることについてどう思いますか?

AM: 元々は卒業制作として先生や一部の友だちにだけ見せる予定だったのですが、いろいろな人に観てもらう機会を与えてもらって大変ありがたいと思っています。映画を作っている時から、万人に楽しめるものにしたいと思っていたので、僕としてはひとりでも多くの人に観てもらいたい。母や妹には私生活をさらすことに戸惑いがあったと思うのですが、障がいに対する理解を広めたい、家族の視点で見れば意外と普通なんだと伝えたい、という僕の思いを受けとめてくれて、最終的に3人で多くの人に観てもらうことを決めました。

Q: 次回作の構想はありますか?

AM: 『ちづる』は、映像制作の仕事に就くという夢をあきらめるために、もうこれ以上できないというくらい自分のすべてを注ぎ込んで作りました。今は福祉の仕事をしているのですが、先日ひさびさに自分の作品を観て、制作当時と見方が変わっていることに気がつきました。福祉の現場で相手の気持ちを考えることをずっとしていて、妹の気持ちも以前より考えられるようになったので、今なら違ったふうに撮れると思ったのですね。今は仕事が一杯一杯で(入社1年目)具体的な構想はないのですが、もう撮らないと思っていた自分の気持ちが変わってきているのは感じています。またいつか映画を撮れたらいいですね。

(採録・構成:鼻和俊)

インタビュアー:鼻和俊
写真撮影:千葉美波、広瀬志織、馬渕愛/ビデオ撮影:千葉美波/2011-09-17 東京にて