『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus Vol. 1 “2011年4月”, Omnibus Vol. 2 “2011年5月”』
前田真二郎 監督、鈴木光 監督 インタビュー
声色の持つ生々しさ、そこに表れる人間の個性
Q: 『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus』の企画を考えたのはなぜですか?
前田真二郎(MS): 撮影した映像を後から見直したとき、そこにそれよりも過去や未来の情報を見出せるときがあります。その感覚を表したいと思い、過去と未来を重ね合わせながら現在を見るような構成を考えました。また、あらかじめ問題設定やメッセージを決め、それを多くの人に上手く伝えることを目的に作品を作る方法もありますが、一方で、撮りながら作品が生成されていく形もあっていいのでは、と考えました。この作品には、撮る動機や、撮った後の報告が音声で入り込んでいます。普通それは作品の外にあるものですが、今作品ではそれを敢えて作品の中に入れています。
Q: 『羊飼い物語』で井上信太さんに「羊飼い」として出演してもらったのはなぜですか?
MS: まず、井上さんの「羊飼いプロジェクト」を撮れば、それと共に都市も記録できると考えました。しかし都市だけでなくその土地に住む人の“声”を記録したいと思い、簡単なストーリーを作ることにしました。その際、映画の時間を観客と一緒に引っ張っていく存在として、適度に抽象化された羊飼いの物語が作品の世界観にぴったりだったのです。その結果、たくさんの人の声を記録することに成功しました。今の社会は、インターネットが普及したこともあり、映像が生活に浸透しています。このような社会において個性が表れるのは見た目よりもむしろ声色だと思いますし、それが持つ生々しさに以前よりも注目するようになりました。『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus』で声の録音を指示したのも、そのような理由からです。
Q: 鈴木さんは前田さんからの指示書を受け、実際に作品を作ってみていかがでしたか?
鈴木光(SH): 『羊飼い物語』では「大垣2010」を制作しましたが、まず「新宿2009」を観るところからはじめました。そのうえで改めて指示書を見て、“新しく、僕が考えた”大垣で出来ることは何かを考えました。しかし「新宿2009」を観れば観るほど、自分がその作品に寄ってしまい、創造性に少し欠けてしまいました。そこが若干の反省点です。『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus』は、指示書を見たときに記録性に寄ったものになりやすいのでは、と思いました。作品を作る際、記録性を重んじれば表現する部分は減っていくと思いますし、何かを表現することに重きを置けば、創造性の部分は減っていくと思います。そのバランスが難しかったです。
Q: この2作品は「視点」に関しては対照的ですよね。『羊飼い物語』が非人称的な視点で撮られている一方で、『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus』は個人の視点そのものが作品になっていると感じました。
MS: 『羊飼い物語』では敢えてカットに関してあまり好みを入れていません。撮影する際の個人的な癖をなるべく排して、一般的にというか、ある意味無個性的に撮っています。逆に『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW Omnibus』は撮影者個人の5分間が作品になっています。ほとんどの人が自分の声を使っていますし、内生的な雰囲気になるだろうとは思いました。それぞれの撮影者の持ち味が発揮されて、それが作品化されているのが今作品の特徴だと思います。
(採録・構成:須藤花恵)
インタビュアー:須藤花恵、田中可也子
写真撮影:堀川啓太/ビデオ撮影:広瀬志織/2011-10-08