サンターナ・イーッサル 監督インタビュー
映画は自分と向き合う手段
Q: デビュー作で家族を撮ることについて、どう思っていらっしゃいますか?
SI: 家族を世間にさらすということは、大きな決定であったことに間違いはないですが、私の父親がアルコール依存症ということは家族にとって大きな問題であったし、私の先生や友だちも知っていることでした。父に対する私の見方を示すだけではなく、妹、母の見方もみんなに示したかったのです。また、個人的な話をフィルムにすることで、私は問題をじっくりと考え直す最良の機会を得たと思います。私は今回この映画を作る上で、強制的に家族との接し方について考えなくてはならなくなりました。そして、このことは私に解決策を講じてくれました。映画を作ることを決めるまでは、世間体などを考えたわけですが、一度作ることを決めてからは非常にスムーズにいきました。家族間の問題を理解し、解決に向けて前向きに考える手段になりました。
Q: それは、映画を撮ることで客観的になったということなのでしょうか?
SI: そう言えると思います。家族というのは、自分がこう言ったら、相手もきっとこう言うだろう、という推測で会話や行動が成り立ってしまいます。しかし、今回このフィルムを作ることで、その思い込みが覆されていきました。母、妹、父からは私が考えていたこととは、まったく逆の答えが返ってきました。私はそれを知ることで、アルコール依存症の問題について非常に客観的になれました。
Q: 映画のラストシーンが印象的で、私はこの作品の繋がりを感じたのですが、監督がそこに込めた想いは何でしょうか?
SI: 父は私が幼い頃は本当に素晴らしい父親であったのに、アルコールを選択したことで、それは彼を破滅させ、家族に迷惑をかけ、父親という役割すら果たさなくなってしまう結果を招きました。私はもう独立して自分で生きているわけですが、彼はアドバイスしてくれるわけでもなく、何ひとつ父親らしいことはしてくれません。その上、最近は私が母親のような役割をしなければならないのです。そこまで彼に要求されるのは、正直たまったものではありません。ラストシーンは彼との関係を一切断ち切ったほうが良いのか、徹底的に彼の状況を見たほうがよいのかわからない、私が混乱状態にある、ということに尽きます。
Q: 映画の中では、お父さんとの関わり方についてかなり揺れているようでしたが、撮り終えた今はどのような気持ちなのでしょうか?
SI: 私が映画を撮ろうとした時は、父との関係は冷めていて、関係も一切を切ろうとしていました。でも、この映画を撮るためには、彼の意見も聞かなくてはならないので、話をするようになりました。その中で、私が彼に会わないのが正しいことなのかという疑問がわいてきました。また、この作品を作るにあたって、彼は3年以上も禁酒をしていたのです。
非常に皮肉な話ではありますが、この映画を制作することで、しだいに父との間に強い関係が構築できてしまいました。彼は私の父親であるし、人生においてかけがえのない人です。彼の過ちや、どうしてアルコール依存症になってしまったのかということについて、最近では理解してきていることもあって、関係を切る必要もないと思いはじめました。彼は現在禁酒もしているわけですし、この状況が続いて、更に関係が強くなれば良いと思っています。しかし、もし彼がもう一度お酒を飲むようなことがあれば、また状況は変わるでしょう。
(採録・構成:今野綾香)
インタビュアー:今野綾香、園部真実子/通訳:今井功
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:佐藤寛朗/2007-10-05