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YIDFF 2005 ニュー・ドックス・ジャパン
僕は神戸生まれで、震災を知らない
元木隆史 監督インタビュー

「俺も震災のこと考えてんねんで」っていうフェイクを
作りたかったんじゃないですかね


Q: 撮影を行った長田で上映はされましたか?

MT: 撮影でお世話になった方に対して上映会をしました。震災を経て8年後の長田を撮ったドキュメンタリーということで、震災の映像がもっと入っていると期待されていた方がいたようです。この作品はどちらかと言えばセルフドキュメンタリーなので、その辺で温度差がありました。さらに、被災が大きかった方からは被災の真実をきちんとなぞらえたうえで長田を取り上げてほしかったという声もありました。一方で、これが8年経った長田の今の姿でそこに初めて来る人なんだから、こういう震災の捉え方もあっていいんじゃないかと言ってくださる方もいました。マスコミの中には、震災の直後に被災地に行ったものの、自分が被災者に対して真の部分で共感しきれない「しょせん外様なんだ」という気持ちがずっとあって、それをなかなか言えないという思いを抱えていた方もいて、そういう方ははじめから「外様です」と言って、撮影を始めた僕のやり方をおもしろいと思ってくださったようです。

Q: 初めてドキュメンタリーを撮ることになった経緯を教えてください。

MT: ずっと劇映画を作っていて、大学院のときの作品が単館系で公開されました。その噂を耳にした(この作品に出てくる)同級生の田中君が、彼の地元である長田でも上映したいと連絡をくれたんです。地元商店街の復興事業の一環でやりたいということでした。16年ぶりに長田の町を見たら、昔と全然違っていて、彼もいろいろ話をしてくれました。そうしているうちに、長田で何か映画を作ってほしいと突然言われました。そこで、震災を知らない自分が変わってしまった長田について撮るドキュメンタリーだったらおもしろいんじゃないかと思いました。ちょうどテレビのドキュメンタリーの話が来ていたこともあり、撮影に至りました。結局は、撮影していくうちにテレビ番組で終わってしまうような内容ではなくなり、完全に自主映画でやろうということになりました。

Q: 今改めて、なぜこの作品を撮ったのだと思いますか?

MT: 作品中にもありますが、「俺も震災のこと考えてんねんで」っていうフェイクを作りたかったんじゃないですかね。

Q: 作品紹介文には「言い訳」とありますが?

MT: そうですね。でも、言い訳しようにもなかなか都合よくいきませんでした。8年経って、神戸生まれの自分が震災を知らないということが心の中にあり続けているのに、それを大きな声で言えない自分がいるんだということに気づきました。そのため自分でカメラを持って行きつつ、自分を撮らせました。そのことで逃げられない状況になったり、カメラが廻るとこういうことが言えないんだなと思ったこともありました。カメラが廻っているからこそ内面をさらけ出そうと努力できたとも言えます。

Q: どんな人にこの作品を見てもらいたいですか?

MT: 阪神淡路大震災に限らず、地元が被害を受けたけど、復興の手助けができなかったり、しようとも思わなかったりした人っていると思うんです。自分はそのしようともしなかった人間で、そういう人間がこの作品の中で悩んだりしています。同じような境遇の人がこの作品を見て共感し、自分の地元に一歩でも近づいてもらえればと思います。

(採録・構成:猪谷美夏)

インタビュアー:猪谷美夏、加藤孝信、加藤初代
写真撮影:加藤孝信、加藤初代/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-09-22 東京にて