キム・ギョンマン 監督インタビュー
一番大事なのは民衆 許可は取りません
Q: 監督が過ごした1970年代はどういった時代でしたか?
KK: フィルムは私が生まれる10年ほど前のものです。60年代は韓国は北朝鮮よりも貧しく、パク・チョンヒ政権でした。彼は元々軍人でクーデターによって大統領になった人です。独裁政権で、正当化するために反北朝的な政治をしていました。しかし国民には支持されなかったので、アメリカから援助を受けていました。反政権の人は、共産主義とされて処罰されるような時代でした。
70年代は彼が、大統領をやめて、韓国が豊かになった時代です。私が小学生の時、反共産主義の教育を受けていました。共産主義がいかに悪いかを教えられ、北朝鮮にはお化けや、妖怪がいると教えられ、信じていました。道徳の授業では、北は悪い国、南は正当性のある国とされ、私自身反共作文大会で賞をとったことがあります。
20歳の頃、軍事政権から民政へと変わり、韓国が急速に変化しました。10年後に南北の代表が会見したことは、とても信じられないようなことだったので、衝撃的でした。年輩の韓国の人には今でも、北に対しての憎悪の気持ちが存在しています。
Q: なぜ監督は、この映画を作ったのですか?
KK: 元々、ドキュメンタリー映画が好きでよく観ていました。私の周りでは、学生運動をするか就職するという選択が主流でしたけれど、自分はどちらも違うと感じていました。ドキュメンタリーは作る人の語る手段。自分の語りたいことが、ドキュメンタリーで語ることができるのではと思いました。この作品をつくる動機となったのは、2003年11月に兵役拒否者の会に行った時、知人に集まりの時に上映する映画を作ってほしいと、頼まれたことです。ちょうど、3年間集めていたフィルムがあったので、それを使ってこの映画を作りました。
Q: 兵役制、日本の自衛隊についてどう考えていますか?
KK: 兵役制について、私は反対です。そこには個人の選択権がなく、権力者によって強制されるものだから。また、韓国軍は北に対しての防衛として、多くの人が必要だと考えているけれども、私は北よりも、アメリカのほうが脅威だと思います。実際、韓国軍は韓国民を守ったことはないし、米軍が韓国人を傷つけても、何もしない。韓国にとって、軍を持つことは危険なのです。もちろん軍がなくなることが理想です。自衛隊についても、軍隊と同じで危険と考えています。軍隊は、国民を戦争に連れて行くための道具なので、自国にとって一番危険な存在なのです。
Q: 映画を作る上で意識したことはなんですか?
KK: 滑らかな画面よりも衝突を意識しました。関係ない場面を隣に持ってくることで、違う意味を生み、映像より意味を重視していました。そして、見ていて抵抗感を感じるようにしました。実際に死体を見ることに比べれば、それほどではないはず。私にできるもっとも気持ち悪い映像にしました。この映画に出てくる映像は、1953年から1994年の間政府が撮影していた大韓ニュース、ベトナムのもの、NHKのものです。この映画を作ることができたこと自体が、とてもアイロニーなことです。政府には映像を使う許可を取っていません。民主主義において、主格は民衆なので、許可は必要ないと思います。愛国心が強くなると外国の人が大事ではなくなり、左右、南北に考えが分かれてしまう。たとえば、朝鮮のように。場所が大事なのではなく、その人らしさがあれば、男らしさも愛国心も必要ないのです。
(採録・構成:西谷真梨子)
インタビュアー:西谷真梨子、佐々木将人/通訳:山崎玲美奈
写真撮影:常陸ひとみ/ビデオ撮影:高橋美雪/ 2005-10-11