イ・マリオ 監督インタビュー
加害国に生まれて
Q: 作品制作の動機は?
LM: 韓国の時事雑誌で初めて公に虐殺問題が扱われ、その事実を知って驚きました。韓国の人は自らが被害者である話しかしないのですが、実は自分たちも加害者だったということを知って虐殺について語らなくてはいけないと思いました。
Q: 虐殺事件の被害者であるヴェトナムの方たちは、インタビューにすぐ応じてくださいましたか?
LM: ヴェトナム政府が、韓国との外交については未来を見ようという方針をとっているため、このテーマを扱うことに賛成しませんでした。ですので、ドキュメンタリーの撮影をしに来たとは言わずに、生存者の声を記録すると言って回っていたのです。また、ヴェトナムは社会主義国なので、撮影の際には、いつどこで誰に会って何を聞くのか、申請して許可をもらう必要がありました。後で知ったのですが、インタビューはいつも公安部の人が見に来ていたようです。そのためインタビューに応じてくださった方が、心の中にあるものをどれだけ出してくれたか疑問が残る部分はあります。そのような状況下でインタビューに応じてくださったわけですし、近くに警察がいて、自分の感情を表すことは難しかっただろうなと思います。
Q: 虐殺問題に関して、誰が被害者で加害者というような描き方をすれば批判が来ると思いますが、何か気をつけたことは?
LM: その点に関しては、制作チームでかなり話し合いました。韓国からの参戦軍人の話は入れないというのが私のチームの考えでしたが、必要だと考えるスタッフもいました。結局、撮影はして使うかどうかは後で考えるということにしたんですが、編集段階で入れることになりました。参戦軍人のインタビューを聞きながら、この人たちは加害者でありながら、国や政治からの被害者でもあると思うようになりました。やはり、すべての責任というのは国家や政治のほうにあり、参戦軍人の方々、それからヴェトナムの民間の方たちが被害者になってしまうという構造自体に、問題があると思うようになりました。
Q: そのほか、撮影を通して自身に変化はありましたか?
LM: ヴェトナムに行く前は、よい結果を作らなくてはいけないという責任感や義務感がかなり強かったのですが、実際に行ってみて撮影をしながら、必ずしもよい結果にならなくてもいいんじゃないかと考えるようになりました。撮影を通して、生存者の方々の傷が少しは癒えるのではという気持ちもありましたし、お互いの出会いの過程で戦争がどうしてやってはいけないことなのかが、難しいですが少しずつわかってきたような気がしました。
Q: 上映はされましたか?
LM: 韓国で上映しました。見ていた方はとても辛そうでした。記事を読むのと、映像を通して実際に語られるのを聞くのとでは全然違ったようです。特にインタビュー部分を長めに編集したので、見ている間はかなり大変だったと思います。ヴェトナムでは公式に扱うことが難しいテーマなので、上映は難しいと思います。
Q: 今後の予定は?
LM: 80年の5月に起こった光州事件という民主化運動に関する事件について、自分の意見を持って作品を作るつもりです。民主化運動をしている市民を、国が軍隊を出して虐殺したという事件で、その日が今、民主化運動の記念日に制定され、大統領まで来るような行事が行われていますが、何か違う意味が光州事件にあるのではないかと思っています。
(採録・構成:猪谷美夏)
インタビュアー:猪谷美夏、柏崎まゆみ/通訳:山崎玲美奈
写真撮影:斎藤健太/ビデオ撮影:大木千恵子/ 2005-10-12