Part 10
沖縄イメージの乱反射
沖縄は映画的な島である。それは亜熱帯の光の中でのシチュエーション描写の安易さや、製作本数という量的な意味でそうであるということだけでもない。映像が提示する質と境界横断的な拡がりにおいて、そうであるということである。なぜこれほどまでに眼差しが注がれ、表現の欲望を駆り立てるのか。誰もが説明できない「事実」である。
そして、多くの映画が製作され、今も不断に生み出されている。沖縄イメージの乱反射から、新しい世代の作り手はどのような映画の旅を始めるのか、現在進行形の「作家」たちの作品に向かう。
1 | 「沖縄イメージ」の鏡像 |
白い壁画
White Mural-
1942/モノクロ/35mm/96分
35mmマスターポジからの反転プリントのため、映像、音声に乱れがありますが、ご了承下さい。
監督:千葉泰樹 脚本:吉田二三夫
撮影:中井朝一 特殊撮影:円谷英二
音楽:鈴木静一 美術:阿部輝明 製作:児井英男
出演:入江たか子、月形龍之介、花井蘭子
製作会社:東宝 提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
黒水病という風土病が流行していた西表島に渡った青年医師の物語である。“真面目な好青年医師”が困難に立ち向かう物語の娯楽映画であるが、戦争前の沖縄、そして離島の様子(撮影は沖縄本島のみ)が端正に描かれている。当時の日本人にとっては、沖縄という日本国内の最南端地域(台湾は日本の既定の領土ではなかった。あくまでも植民地だったのである)の中での日本人医師の活躍は魅力的なヒューマン娯楽ドラマとして楽しめたのだろう。
ソナチネ
Sonatine- 1993/カラー/35mm/94分
監督、脚本、編集:北野武 撮影:柳島克己
録音:堀内戦治 音楽監督:久石譲 美術:佐々木修 製作:奥山和由
プロデューサー:森昌行、鍋島壽夫、吉田多喜男
出演:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、寺島進、大杉蓮
製作会社:バンダイビジュアル、松竹第一興行 提供:松竹
北野武は、『3-4x10月』(1990)で不条理な動機とシチュエーションで沖縄に行ってしまった青年たちの奇妙な体験をテーマにした。登場人物たちは一応、東京を出て、沖縄に行き、そして東京に戻ってきた。ある面、沖縄は“転換”のための舞台だった。それに対し、その3年後に製作された『ソナチネ』では、沖縄は行き止まりだ。そこに足を踏み入れたビートたけしが扮する殺し屋はその子分たちを従え、“終結”のために、暴力も、遊びも、逃走も、男も、女も、敵も、仲間も、存在している。
2 | オキナワ・ミックス・スプリット |
パイナップルツアーズ
Pineapple Tours- 1992/沖縄語、日本語/カラー/35mm/118分/日本語・英語字幕版
監督、編集、原案:真喜屋力、中江裕司、當間早志
脚本:真喜屋力 撮影監督:一之瀬正史
録音:滝澤修 音楽:照屋林賢 美術:和宇慶文夫
総合プロデューサー:代島治彦
出演者〈第一話「麗子おばさん」〉:兼島麗子、新良幸人、富田めぐみ
〈第二話「春子とヒデヨシ」〉:利重剛、宮城祐子
〈第三話「爆弾小僧」〉:津波信一、仲宗根あいの、洞口依子
企画、製作会社:スコブル工房、パナリ・ピクチャーズ、琉映
提供:スコブル工房
1980年代後半、琉球大学映画研究会時代から、県内各地で活発な上映会や批評活動などを行っていた3人のメンバーが撮った初の劇場公開作品。音楽、出演者、沖縄方言と共通語を混合させたウチナーヤマト口など、80年代の沖縄文化のポップ化=商業化を象徴するような要素が散見され、90年代後半以降の沖縄文化のひとつの方向性が示唆されているようにも見える。
たたかう兎
Fighting Rabbit- 1992/ダイアローグなし/カラー/8mm/42分
監督、撮影、編集、提供:具志堅剛
1980年代後半から個人映画を撮影していた具志堅剛が製作した8mmフィルム作品。製作時、具志堅は26歳。交通事故で他界した弟がいなくなった家族の日常風景にカメラを向けながら、撮りためていた8mmの映像とともに再構成して完成させたプライベート・フィルム的な作風。『たたかう兎』というタイトルは、叔父宅で鶏と餌の取り合いをしていた兎のたくましさと、作品製作時の作者の「元気にやっていこう」という気持ちが一致したことに由来している。
ヒッチ・ハイカー
Hitchhiker- 1977/モノクロ/16mm/15分
監督、脚本:謝花謙
撮影:中村均 録音:青木喜代門
出演:越智貞夫 提供:謝花謙
日本復帰後の沖縄で、当時東京の大学に通っていた謝花謙が16mmで撮影した劇映画。路上でヒッチハイクをする若い男性を、自転車に乗ったアメリカ人らしき少女が拾い、一緒にアメリカに行こうとする場面から物語が始まる。途中、米軍基地に突き当たり、マラソンで基地一周をするアメリカ人・ロイと遭遇し、一緒に基地の外周を走る。若者のアメリカに対する憧れと、当時から沖縄に厳然と存在していた米軍基地(作品中に出てくるのは神奈川県横田基地)との対比が興味深い作品。
彩縄粋風〜沖縄発・若手作家ショートフィルム集
どんな風に語られようとも、その大地に根ざしその空気を吸い、そこで創作する人々はいつでもいる。世界中の映像事情で見られるように、沖縄在住の若手作家たちもここ数年、ビデオを使った短編作品を多く作り出している。その一端をご紹介する。NHKデジタル・スタジアムで今年6月に紹介され、質の高いCGやアニメーションが話題な3人の作品、小松橋人『とぶこつ』、川端匠志『忍者2000ミレニアム』、又吉浩『Wonder Frog』と新作『夏休みの実験』。独特の雰囲気を醸しだしている亀島誠『未定』。1999年に大学の仲間で結成し、活発な活動をしていた自主制作映画グループMix Breed Film Familyから、繊細な秋の沖縄風景が印象的な宮平貴子『Call』。80年代から8mmフィルムで個人映画制作を続け、現在中江裕司作品の多くに関わる具志堅剛(『たたかう兎』)の『琉球アンダーグラウンド「花」』。大学時代より沖縄で映像制作を続ける當間早志(『パイナップルツアーズ』)が1990年からミュージシャン「やちむん」を撮り続け、今年DVD企画化された『やちむん伝説』より、精彩な3作品。色とりどりに綯れ、個々の空気が取巻くジャンルを飛び越えた映像集。
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とぶこつ
TOBUKOTSU - 2001/カラー/ビデオ/8分
監督、製作、提供:小松橋人
出演:久見奈津子、平良聖、高見直人
忍者2000ミレニアム
Ninja 2000 Millennium- 2001/カラー/ビデオ/13分
監督、脚本、音楽、提供:川端匠志
撮影:桃原貴志、平良隆一、新垣琉太
編集:川端匠志、平良隆一
音声:具志吉恵、SAYAKA、伊佐奈津美
出演:武村博貴、桃原貴志、大城和久、比嘉祥一朗、平良隆一
企画、製作:TEAMなっちゃん
Wonder Frog- 2001/ダイアローグなし/カラー/ビデオ/6分
監督、提供:又吉浩
音楽:赤嶺鶏太郎 粘土作り:中垣秀之進
夏休みの実験
The Summer Vacation Experiment- 2002/カラー/ビデオ/3分
監督、提供:又吉浩 出演:松田幸生
未定
Unfixed- 2003/カラー/ビデオ/10分
監督、提供:亀島誠
Call- 2001/カラー/ビデオ/19分
監督、提供:宮平貴子
出演:ヘレナ、仲本亜希子、下地敏也
製作:Mix Breed Film Family
琉球アンダーグラウンド「花〜すべての人の心に花を〜」
Ryukyu Underground "Hana--A Flower for Each Person's Heart"- 2003/カラー/ビデオ/5分
監督、撮影、編集:具志堅剛
出演:琉球アンダーグラウンド
製作:中江裕司 提供:リスペクト・レコード
やちむん「青空」
Yachimun "Sky Blue"- 1994/カラー/ビデオ/6分
監督、撮影、編集、提供:當間早志
撮影助手:武富良実
出演:やちむん(奈須重樹、本村実篤、川上武)
製作:Shige & Hayashi
やちむん「北前ソング」
Yachimun "Kitamae Song"- 1994/カラー/ビデオ/5分
監督、撮影、編集、提供:當間早志
出演:やちむん(奈須重樹、本村実篤、川上武)
製作:Shige & Hayashi
やちむん'93 LIVE in OFT Opening Movie
Yachimun '93 LIVE in OFT Opening Movie- 1993/カラー/ビデオ/11分
監督、撮影、編集、提供:當間早志
出演:やちむん(奈須重樹、本村実篤、平良受理、儀部高行、佐藤哉、仲村和弘)
インタビュアー:武富良実
製作:Shige & Hayashi
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とぶこつ