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事務局より

2014-07-10 | 「シマ/島、いま ― キューバ」のその後のNoticiero #02

 キューバは紙も潤沢にあるわけではない中でよくぞ、というほど映画関係の本の出版が少なくない。ICAIC出版部からだけでなく、インディペンデント・レーベルや地方の出版社からの出版も不断に行われている。今回いくつかの本屋や古本屋を歩き回ってみて、どこにでも必ず映画専門書が置いてあることに感嘆。とはいえ、必ずしもここにこの本があるという確約はないので、欲しい本のために書店を歩き回ったり、どこからか入手してくれる可能性の高い古本屋さんにリクエストをしつつ、そこに何度か催促に足を運んだりしなければならないのだが。そういったやり取りも含めてキューバの典型的な生活スタイルといえなくもない。 ドキュメンタリー関係では、フランスなどヨーロッパで出版された書籍の翻訳版の研究書だけでなく、2010年に発刊された『Romper la tension del arco. Movimiento Cubano De Cine Documental(弓の緊張を壊す、キューバ・ドキュメンタリーの運動)』という初めてのキューバ・ドキュメンタリーの専門書に出会うことができ、辞書を片手に本書と格闘する毎日を過ごす。著者のホルヘ・ルイス・サンチェス・ゴンサレス(Jorge Luis Sanchez Gonzalez)は、1960年生まれで自身もドキュメンタリー監督でもある。1897年から7期の区切りをつけ、キューバ・ドキュメンタリーの形成とその時々の重要な作品を丁寧に取り上げ、主要な作品を例に挙げながらキューバ・ドキュメンタリーの布石をひも解いてゆく。巻末には取り上げた作家の詳細なフィルムグラフィも付いている。

 他のラテンアメリカ諸国ともこの点は共通するのが、日本でも知られているようなラテンアメリカ文学者、哲学者、芸術家、経済学者はもちろん、新進作家まで、大小様々な形で本が手に届くところにあり、国際ブックフェアの喝采ぶりは日本とは比にならないお祭り騒ぎで、言語表現活動とその受容が息づいていることを強く感じさせられた。

 ラテンアメリカ文学と言えば、4月17日に、その訃報が全世界を駆け巡ったガブリエル・ガルシア=マルケスも周知の通りキューバに縁が深く、その一翼の現れとして設立に尽力し理事長を務めていた新ラテンアメリカ映画財団(FNCL・ハバナ市)によって創設されたハバナ国際映画テレビ学校(EICTV)がある。現在もEICTVには全世界から映画を学びに学生が集まる重要な映画の学び舎だ。例えば、YIDFF 2013アジア千波万波で上映された『この2メートルの土地で』の監督アフマド・ナッシャも卒業生のひとり。FNCLはハバナ郊外の緑溢れる広大な邸宅の中に事務所、図書館、劇場を備えている。キューバ滞在中に久々に訪問したのも何かの予兆だったのか、財団のディレクター、アルキミア・ペニャ氏に敷地内を案内されながら、そのときにはまだ存命であったガルシア=マルケスの来日時の様子や財団を訪れた数々の映画人たちの話などをじっくりとお聞きした。第一回山形映画祭の審査員として来形も予定されていたと聞いている。最期まで実現しなかったのは、非常に残念であるが、ガルシア=マルケスの異彩を放ちつつも、万人を引きつけた創作や意欲的な活動から学べることはまだまだありそうだ。

 現在FNCLは、2006年から始動しているDOCTVラテンアメリカというラテンアメリカ各国の公共放送がそれぞれ協力・出資し合い番組制作と全作品の放映を行うテレビドキュメンタリー製作シリーズの基幹団体のひとつ。一口にラテンアメリカと言っても、各国事情や共通した問題意識など様々な要素が盛り込まれていて、魅力的かつユニークなドキュメンタリー作品が集まっていて今後の製作も期待されている。ICAICのドキュメンタリー製作支援がほぼ途絶えてからインディペンデント作品でも、短中編作品が中心であるキューバでも、DOCTVの製作制度を使ってプロデュースされた秀逸な長編作品『La Certeza(確実性)』(監督:アルマンド・カポ・ラモス)があり引き続き注目したい。

(濱治佳 東京事務局