大野太輔 監督インタビュー
風化する震災の記憶を言葉で紡ぐ
Q: 閖上(ゆりあげ)中学校の生徒たちの、友人や家族を失った深い哀しみを希望を持って乗り越えようとする姿に感動しました。撮影当初の状況を教えてください。
OD: 災害後の数日間は互助の高揚感があり、違和感なく溶け込める雰囲気がありました。また、私が閖上中学校に近い地域の出身であることも説明をしました。彼らも、被災状況を伝えることに社会的意義があると感じてくれていたのか、声をかけるとよく話してくれました。一方で、ボランティアのように直接貢献できるわけではないので、カメラを向けることが後ろめたくもありました。
Q: それから1年にわたって子どもたちを取材しようと思ったのは、どのようなきっかけですか?
OD: 家族や友人を失い、閖上中学校に避難された多くの方々について、まずは1カ月かけて1本の番組をつくりました。その間、閖上中学校の2年生が、3月末に通知表を受け取るときに、先生から7人の同級生が亡くなったことを伝えられました。同級生との再会を喜び、同級生の喪失に涙を流した子どもたちが、これからどうやって前に進んでいくのかを1年間見届けたいと思い、番組を企画しました。
Q: 彼らには、友人を失った体験を自ら語ってもらっていますが、インタビューをするときはどのようなお気持ちでしたか?
OD: 彼らがどう前に進むかを見届けるには、どういう傷があったかを聞くことが必要でしたが、聞く覚悟をするのには時間がかかりました。撮影開始から2カ月くらいたって、語ってくれそうな子どもたちに、恋愛の「告白」をするような気持ちでインタビューをお願いしました。彼らの話には驚き、質問を重ねるのに声が震えたことも多いですが、視聴者に届けるべきだとする職業倫理と、彼らのことを知りたいという欲求も少なからずあり、とことんまで聞きました。一方で、子どもたちを尊重するために、彼らが私を受け入れて語ってくれることは、すべて番組に入れました。また、作為性を減らしたいと思い、ナレーションも入れませんでした。
Q: 『つむぐ ―閖上中学校 その言葉の記憶―』というタイトルに込めた思いは何でしょうか?
OD: 震災の記憶が風化する中で、もう一度あの頃のことを思い出してほしい、それを言葉で紡いでいきたい、という思いです。なお、この番組以前に『本当は悲しいけれど』というタイトルの番組を3本つくりました。このタイトルは、子どもたちは被災した翌日に屋上でキャッチボールをしながら笑っていて、本当は悲しいけれど見せるその笑顔が大人たちも勇気づけているということを表現したものです。
Q: 出演された方たちからの感想はありましたか?
OD: 親御さんや先生たちからは、「自分では聞けなかった子どもの声が聞けた。ありがとう」と言っていただいていますが、子どもたちには、今は感想を聞く気持ちになれません。将来、彼らが成人して、一杯酌み交わしながら聞く機会でもあればと思います。
Q: 監督は、どのような姿勢でドキュメンタリーをつくられていますか?
OD: ドキュメンタリーで大切なのは、聞きたいという自分をいかにさらけ出して対象と関係性を築けるかだと思います。記録する対象の温度を高くするため、彼らの哀しみ、苦しみ、喜びを視聴者に伝えるために、「あなたを理解したい」という情熱を裸になってぶつけるのです。なお、番組に作家性を込めているわけではないので、「監督」と呼ばれるのは違うと思います。
(採録・構成:松下晶)
インタビュアー:松下晶、宇野由希子
写真撮影:岩田康平/ビデオ撮影:仲田亮/2013-10-14