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YIDFF 2013 アジア千波万波
チークを辿る道
ルーシー・デイヴィス 監督インタビュー

木が主役の物語


Q: この映画祭で初めて上映された、アニメーションによるドキュメンタリー映画ですが、ドキュメンタリーとアニメーションを融合させたのはなぜですか?

LD: 実は、純粋なドキュメンタリー映画ではないんですよ。自分としては童話や寓話のようなものを思い浮かべて映像を作ったので、今ここにいることに驚いています。この作品は、3年がかりの大きなプロジェクトの中で制作したものです。プロジェクトは、木材のチークのDNAをたどるという科学的な調査でした。私は、アーティストとして、科学者の即物的な見方に異議を唱え、ひとつの物語を表現することに挑戦しました。

Q: コマ撮りを強調した独特な雰囲気のアニメーションは、どのように制作したのですか?

LD: ストップモーションの映像は、とても単純な方法で作りました。実際に木にインクを塗って、スタンプのように木材を使ったのです。ドキュメンタリーという観点から見れば、実際に自分の手で木を使うことで、木に迫ることができたのかもしれませんね。

Q: 音で風景を表現する“サウンドスケープ”という技法を使うとき、どのようにして映像と音を合わせたのですか?

LD: 音は、ザイ・クニンとザイ・タンというシンガポールのアーティストに協力してもらいました。仲の良い友人でもあり、おたがいに影響しあっています。独立したアーティスト同士だから、作品の中の表現には、ある程度それぞれの自由裁量を認めています。私が短いイメージを伝えて、それにもとづいて音を作ってもらう。ときには音に合わせて映像をつける。一緒にダンスをしているように、制作しました。

Q: 木を主役とした物語にはどんな思いが込められているのでしょうか?

LD: チークが幹で、人間はその枝葉です。この作品の主役はチークという木です。幹から伸びている様々な枝葉のように、人間の物語が表現されています。作中に出てくる木片は、木から伸びるそれぞれの物語のメタファーです。そこにあるひとつの事実を即物的に見るのではなく、全体を包括するひとつの物語があるのです。木には精霊が宿っているというシャーマニズムの考え方があります。人間ではない対象から、どれだけ物語を美的に広げていくか。木が水を吸って変化するように、自分のプロジェクトもふくらませていきたい、そう思いながら、木の重圧や厚み、質感を表現するために努力しました。エコロジカルな視点と、マクロとミクロの視点からチークを描きました。人間が中心ではなく、木の物語の中に人間の物語があるのです。エンディングではアニメーションに様々な人の手で造られた物が登場し、最後には自然に飲み込まれてしまいます。人間がどうあがいても自然は生きていきます。そういった意味で、自分ではポジティブなエンディングにしているつもりです。私は木自体に備わっている可能性をどうすれば広げられるかを意識しています。マレー人には、木には精霊であるサマンカが宿っているという考え方があります。もしかしたら、私のDNAにも宿っているかもしれませんね。

(採録・構成:久保田菜穂)

インタビュアー:久保田菜穂、高橋茉里/通訳:谷元浩之
写真撮影:松下晶/ビデオ撮影:山口将邦/2013-10-11