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YIDFF 2013 アジア千波万波
愛しきトンド
ジュエル・マラナン 監督インタビュー

愛されるべき場所トンド


Q: 撮られることに抵抗感を抱く人が多いのですが、この家族はカメラを気にする様子がありません。どのように彼らとの距離を縮めたのですか?

JM: 私はフィリピンの地方の出身で、マニラには映画制作を学びに来たのです。しかし学校の中で学んでいることよりも、外で起こっている出来事にショックを受けました。学校を卒業してから2年間、私は様々なコミュニティに入り込み、地域の人々と活動を共に体験することで、トンドに入り込んで行きました。私の人生を彼らの人生と共に歩んでいくことによって自然と信頼関係ができあがったのです。

Q: この地区には貧しい人々が大勢いますが、その中でもなぜこの家族を被写体として選択したのですか?

JM: 国営の港が民営化されるという過度期にこの映画は作られました。港には40万人が住んでおり、民営化に当たって他の場所に移らなければならなくなりました。大きな問題ですが、私は自分の映画で正面切って取り上げようとは思いませんでした。しかしこの問題は産業対個人の対立ということを象徴しているような出来事です。それをある家族で象徴させて描きだしたかったのです。その結果があの家族です。彼らはあの貧しい地域のなかでも一番ギリギリの際にいる家族です。しかし家の窓からは港が見えている。個人の生活と港という産業が非常に密接な位置にある。そのような状況を撮影することによって、彼らの生活の中と外の要因というものをうまく対比できる家族だと思い選択しました。

Q: この映画はほとんど家のなかで撮影されています。かなり限定した場所で撮影したということに、なにか意図はありますか?

JM: あります。映画を思い出というような形で作りたかったのです。そこでの空間やそこでの時間の流れがどうであったのかといった切り口で撮影したいと思いました。私は現場にいるとき常にヘッドホンをして、常にファインダーを覗いていたので、カメラと完全に一体化していました。ですから、そこにいるときは本当に自分の気持ちと連動するようにカメラが動いていました。

Q: 貧しい環境にいるはずの子どもたちは実に幸せそうに見えますが、私は豊かさを知らないゆえに本当の幸福を知らないのだと思いました。子どもたちにとっての本当の幸福とはどういうものだと監督はお考えでしょうか?

JM: 答えは分かりませんが、私も同じような印象を持ちました。ただ、彼らは今まで出会ったなかで最も幸福そうに見える人々です。もしかしたら幸福感というのは彼らが生き抜くために必要なのかもしれません。政府や社会が与えてくれない援助を補完するために、自分を守るために、幸福感というものを引き出して利用しているのかもしれません。

 しかしその幸福感というのは幻想です。本当の意味での物質的な幸福を彼らが感じられ、苦しみを忘れるために無理矢理幸福を感じるということがないような世の中になってほしいと私は思います。

Q: 『愛しきトンド』という題名の「愛」はどのような思いを込めてつけられたのでしょうか?

JM: 社会の愛です。トンドというのはフィリピン革命の地です。私はトンドをフィリピン発祥の地だと捉えています。本当は愛されるべき場所であるはずなのに、実際は深刻な貧困の場所となっています。この地域を愛すべきであるのに、こういう愛の形はどうなのだろうかと、社会に投げかける意味でこの題名をつけました。

(採録・構成:森川未来)

インタビュアー:森川未来、西山鮎佳/通訳:新居由香
写真撮影:山口将邦/ビデオ撮影:山口将邦/2013-10-14