大木裕之 監督インタビュー
今、アジア映画の位置
Q: 今年のアジア千波万波のプログラム全体に対して、どのような感想を持たれましたか?
OH: どの作品も個性的で、それでいて、否定的な意見を持たせられた作品はほとんどなく、とても審査のしがいのある内容でした。今年は、インターナショナル・コンペティションに、アジアの作品が少なかったことが残念でしたが、このプログラムの作品も、アジアに限って評価されるべきものでなく、欧米に対してもその存在感を十分に示せる作品が、多々あったと思います。
Q: 審査員として参加して、監督として参加した時とどのような違いがありましたか?
OH: 賞を与える立場となって、監督の将来性を考えるようになりました。ここで賞をとる、賞をとれないよりも、その今の自分を、どのように受け止めていくかのほうが、意義のあることだと思いました。監督ひとりひとりが、ベストな状態で、自らの作品に対する評価を受け止め、彼らの新しい流れにつなげてほしいと思います。
Q: どのようなことを基準に審査されましたか?
OH: もうひとりの審査員であるシャブナムさんと、お互いに様々な意見をぶつけ合う中で、徐々に“誠実さ”が、ひとつのポイントとなってきたように思います。それは、それぞれの作品のテーマに対して、監督の素直な感情がどれだけ作品に活かされているか、というような“誠実さ”です。表面的なことへのこだわりが前に出て、作品のテーマと監督の間に距離が残ってしまう作品では感じられない、作品の力強さを感じさせてくれるものです。この基準が見えてきてからは、ほとんど意見が割れることなく、お互いに納得のいく審査が進められた、と感じています。
Q: なぜ、その“誠実さ”がポイントとなったのでしょうか?
OH: 映像を撮る環境が便利になればなるほど、優れた作品を作ろうとする思い、美しい映像を撮ろうとするこだわりが、監督の中に芽生えてくるでしょう。しかし、それに固執しすぎて、監督自身がテーマと向き合っていくことの大切さを見失ってしまうような作品もあります。日本も含め、映像を撮る環境が発展した国では、そういった作品が、どんどん増えているように感じられます。そして、それに慣れてしまい、私たち自身、内容がないことにあまり違和感を持てなくなっているのではないでしょうか。しかし、それらの作品が、監督の素直な感情に満ちている作品より、力を持っているとは思えないのです。
今回、19本の作品をじっくり吟味していく中で、作品ににじみ出ている監督の感情に、共感させられ、心打たれることが多々ありました。それらの作品は、どれも表面的なものに収まらないものばかりで、監督にとって、その作品のテーマがどれだけ重みのあるものかが、直に伝わってくるものばかりでした。そして、そのように感じさせてくれた作品の映像は、特別な技術でなくても、人に強く訴えかけてくる、美しいものに仕上がっていました。監督が、そのテーマにぶつかっていき、そこで感じた素直な思いが、作品の重要な要素になっているのです。これは、ドキュメンタリー映画を撮る上で、あまりにあたりまえのことに思えます。あたりまえのことだからこそ、このような“誠実さ”を評価すべきだと考えました。この“誠実さ”こそ、今、アジアのドキュメンタリーに注目すべき、一番の理由に思えたからです。
(採録・構成:高田あゆみ)
インタビュアー:薬袋恭子、高田あゆみ
写真撮影:知久紘子/ビデオ撮影:伊藤歩/2009-10-15