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YIDFF 2005 日本に生きるということ――境界からの視線
Identity
松江哲明 監督インタビュー

枠にとらわれずに撮り続けたい


Q: 『Identity』を作ったきっかけはなんですか?

MT: プロダクションのHMJM(ハマジム)からオリジナルDVDを出したいということで作りました。いまAV業界は、似たようなものばかりが作られているんですけど、カンパニー松尾さんのHMJM(ハマジム)では、自分の好きな物を作らせてもらえたんです。それで、在日の役者さんを使った作品を撮ることになりました。AV俳優の面接では、年齢確認のために、身分証明書を見せてもらうんですが、それを見れば、国籍が日本じゃないことがわかりますよね。面接の時に、AV的な質問だけじゃなくて、もっといろいろ聞いてみたいと思ったんです。

Q: 元々作ったAV作品と、今回上映される作品は違いますよね?

MT: AVバージョンは、120分のセルDVDとして作ったんですが、今回、上映のために編集しなおしています。やはり、セックスシーンはインパクトが強くて、役者さんたちが語っていることが、忘れられてしまう可能性もあるので、セックスシーンを短くして、作品の核となる部分を、しっかり残す形で80分にしたんです。AV版は、部屋で男の人がひとりで観る時に感情移入しやすいように、僕の独白テロップがたくさん入っているんですけど、劇場上映は、大勢の観客向けのスクリーン上映なので、そのテロップを削ったりしています。

Q: 役者さんは、どういう基準で選んだのですか?

MT: 単純に出られる人です。面接の時点で、「あなたの生まれ故郷まで撮影に行きますよ」と言った時に、「あ、それおもしろい」と言ってくれた時点で、もう作品の半分ぐらいは成立しているんですよね。ドキュメンタリーでは、被写体の殻をいかにして剥がしていくか、という作品もあると思うんですけど、彼らについていえば、最初から殻がないわけです。でもあんまり殻がなくて、どこまで本当の話をしてくれているのかわからない、という不安もないとはいえませんが。

Q: テロップが印象的ですね。『あんにょんキムチ』の後で、自分のアイデンティティを強く意識するようになりましたか?

MT: 『あんにょんキムチ』では、他人を撮ろうとも思ったんですけど、やっぱりあの時点では、自分のことを撮りたかったんですよね。でも『Identity』では、自分の考えは、テロップにしか入れていませんね。自分のアイデンティティはなんだ、って普段みんな考えないでしょう。在日である分、“アイデンティティ”について考える機会は多いですけど、いつも考えているわけじゃなくて、やっぱり、“アイデンティティ”についてのテロップを入れる時になって、初めて自問自答するっていうか。あのテロップは、最初は入っていなかったんですよ。テロップ全体については、プロデューサーの松尾さんのアドバイスがあったんですよね。「在日としてのおまえの中にあたりまえにあるものが、必ずしも観客にあたりまえなわけではない。少しわかりやすくするべきだ」って。それで在日の歴史的背景とか、僕の立ち位置とかをテロップで入れたんです。

Q: AVを撮る理由は?

MT: 学生の頃から好きだったというのもありますけど。ちょっと語弊があるかもしれないけど、僕にとっては、AVも映画もテレビ番組も区別はないんです。その場その場で、自分と被写体の関係性をどう撮るか、ということが僕にとっては大切なわけで。できあがった作品が、テレビっぽくないとか、AVっぽくないとか言われることもありますけど、枠にとらわれずに作っていきたいですね。

(採録・構成:加藤初代)

インタビュアー:加藤初代
写真撮影:加藤孝信/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-09-23 東京にて