2014-06-11 | | | 韓国・ソウルより |
韓国のプサン国際映画祭がアジアのドキュメンタリー映画の製作助成「ANDファンド」を始めて9年になる。大学や銀行などさまざまなスポンサーから資金を集め、可能性の高い企画に毎年総額1億3千万ウォン程度を補助している。個別の助成額は50万〜100万円と少額だが、受賞者はプサン映画祭に招待され、講師のアドバイスを受ける機会を得る。
「ANDファンド」の冠がつくと、世界の映画祭の作品選定委員も丁寧に見てくれる。YIDFFでも、ANDファンドの助成を受けて完成された作品が多数上映されている。YIDFF 2013では『蜘蛛の地』『空低く 大地高し』『愛しのトンド』など。
最近は応募総数がうなぎ昇りで、今年も韓国以外のアジア諸国から100以上の企画が寄せられた。ドキュメンタリーの製作本数が激増する中、人に見てもらうまでの作り手の苦労は10年前と比較にならない。
今ソウルでこれを書いている。四日間に渡る今年の助成金選考会を終え、ほっとしている。中国、タイ、台湾、韓国の映画上映者たちと、アジアのドキュメンタリーの製作・配給・流通をサポートするネットワークを始めてまもなく10年。今後もさまざまな方法でアジアのドキュメンタリーの支援を続けていきたい。
YIDFFでは、東京事務局ディレクターの職を退き、理事として新たな関わり方を担っていくことになりました。 これからも、どうぞよろしくお願いします。
2014-06-11 | | | 「シマ/島、いま ― キューバ」のその後のNoticiero #01 |
前回のニュースから早4ヶ月が過ぎていますが、その後2月末までキューバ、3月いっぱいメキシコ滞在を経て、4月より東京事務局に戻りました。前号に引き続き、キューバ滞在の日々を簡単に振り返り、雑感を綴らせていただく。
主に、新ラテンアメリカ映画祭(Festival Internacional del Nuevo Cine Latinoamericano)や新人監督映画祭(Muestra Joven)の事務局で新作の情報をもらいながら試写をさせてもらったり、映画フィルムや書籍、映画雑誌、カタログなどの保存収集と定期上映プログラムを行う機関であるシネマテカ(Cinemateca de Cuba)でドキュメンタリー関係の書籍を閲覧したり、 合間合間で制作者の方々とミーティングを持ったり、インタビューしたりしていた毎日が瞬く間に過ぎたのは、何事も一筋縄でいかないお国柄だけではなく、作家たちの製作に対する熱情や意欲に触れ、幾つかの心意気ある創作活動と出会うことがあったからだ。
キューバ初のコミュニティ発信メディアとして活動を始めたドキュメンタリー制作集団Television Serranaの創立者、ダニエル・ディエス・カストリージョ氏(Daniel Diez Castrillo)が、2013年に20年目を迎えたTelevision Serranaの創設から現在までを振り返った自叙伝『Desde los Suenos(夢から)』が発刊され、好評を博していた。Television Serranaは、キューバ東部のシエラ・マエストラ山脈の山中に拠点を構え、当初は地方発のコミュニティ番組制作局として活動を開始したが、現地から中継発信されることはこれまでないが、過去に作られてきた500作余もの作品は、幾つかが電波に乗り国内放送されているが、キューバでの主要な鑑賞機会も、映画祭である。YIDFF 2011でも『ボイーオ(Bohío)』を上映した。本作のカルロス・Y・ロドリゲス監督の篤い手配のおかげで、Television Serranaの事務所を訪問し、メンバーとの交流や新作や旧作鑑賞の機会を持ち、この上ない時間を過ごした。山間部の澄んだ空気と広大な緑の山々連なる頂きにある事務所は、ハバナや他の都市とは全く隔絶した時間が流れる特別な場所だ。
シエラ・マエストラの農民たちは、キューバ革命の肝であったゲリラ戦争時に多大な貢献をし、また革命政府樹立後もキューバの基盤産業であるコーヒー豆の主要な産地として、国を支えてきたにもかかわらず、生活インフラの面で底辺の環境を強いられてきた。Television Serranaの作品が、その困難な生活環境をコミュニティ・メディアとして中央へ伝える役目を果たしてきていることが認知され、現在ではTelevision Serranaは地域のコミュニ ティの一員として完全に受容されているが、当初、住民たちがTelevision Serranaの活動を理解するには短くない時間がかかったという。
ほかにも、キューバ中部の都市カマグエイにて90年代から制作を続けているグスタボ・ペレスなど、ハバナに留まらない制作状況が見られ、まだまだ奥の深いキューバ・ドキュメンタリーの世界を歩き回る。市場開放の煽りを受け、創作の可能性ににわかに沸いているようにみえるハバナの若手作家たちとは少し距離を置きながら、それぞれの場所で、限られた機材や環境にも関わらず、創意を凝らして弛まないドキュメンタリー制作を続けている作家たちの、「職人」ともいえる姿勢を感じとる。
(つづく)