2013-04-08 | | | 映像と対話、「私」と「公」の戯れ 金曜上映会特別企画「シネマてつがくカフェ@やまがた」報告 |
先月3月23日[土]に、通常の金曜上映会とは少し趣の違う特別企画として「シネマてつがくカフェ」を開催しました。現在全国各地に支部を持ち盛んに開催されている大阪発祥の対話イベント「てつがくカフェ」は、日常のさまざまな疑問、問題を、お茶を飲みながら参加者同士で自由に語り合う、堅苦しくない「てつがく」の場です。今回は、この「てつがくカフェ」山形支部と共催で、身の回りの世界をさまざまな設定のもとビデオカメラで素描し続けている前田真二郎監督をゲストにお迎えし、上映後のディスカッションをメインにした上映会を行ないました。
上映作品は、前田監督の「日々 "hibi"」連作シリーズのうち、山形映画祭2005「私映画から見えるもの」プログラムでも上映された『日々"hibi" 13 full moons』(2005)と、2008年から5年間、8月を対象に撮り続けた『hibi AUG』(2008−2013)の2本。てつがくカフェ@せんだいの常連メンバーも加わり、上映後、監督と、モデレーターの奥山心一朗氏のガイドのもとたっぷり2時間、自由に印象を語り合いました。監督自身の日常生活を織りなす時空間から15秒ずつが切り取られつながれた映像は、ホームビデオ作りのヒントにしたい人から、映し出される町の風景に興味をもつ人、2作品の製作時期や映像手法の差異について語る人まで、参加者の中にさまざまな反応を引き出しその違いの面白さを十分感じさせてくれました。
ある具体的な社会問題について掘り下げたり主張したりする通常のドキュメンタリー映画ではなく、日々のプライベートな眼差しを映像化し、「映画」として多くの観客と共有することでその眼差しを公的空間/言説へと拡張させていこうとするこうしたいわゆる個人映画は、実は、私的な意見をオープンな場所で他者と話し合う、公共空間としてのてつがくカフェそのもののあり方と重なります。どんな質問にも丁寧に答えてくださる監督、率直に意見を述べ合う参加者の皆さんのおかげで、「私」と「公」とが理想的な形で通い合う、とても有意義な時間となりました。
ちなみに山形映画祭では、前回の2011年から、インターナショナル・コンペティション作品の上映時、監督への質疑応答に加えてその延長版である 「サロントーク」という場を設けています。監督や他の参加者と、より近い距離で、映画について語り合うことのできる場であり、前回は多くの参加者に好評を得ました。映画祭の会場は、ただ「見る」という行為だけでなく、 その経験を分かち合った他者と感動や見方を共有することのできる、出会いと発見の場でもあります。今年の映画祭2013でも、このサロントークだけでなく会場のあらゆる場所で、語り合いの芽が無数に生まれることを期待しています。
畑あゆみ(山形事務局)
※4月26日[金]の金曜上映会では、前田真二郎監督の他の短編作品を特集上映します。前田監督も再び来場予定です。 近隣の皆様はぜひ足をお運びください!