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事務局より

2012-11-08 | 『よみがえりのレシピ』イタリア・トリノ上映報告

 山形の在来作物とその種を守ってきた人たちを描きつつ、農業と食と地域の可能性を見つけてみたい。そんな映画が、『よみがえりのレシピ』という山形産のドキュメンタリーである。この映画は幸いにも多くの支援を得て2011年に完成。山形映画祭2011での上映を皮切りに県内外での上映が順調に進み、2012年には香港国際映画祭やハワイ国際映画祭でも上映された。そして、製作過程でつながりを得たスローフード山形やスローフードジャパンを通して、世界的な食の見本市であるイタリアのサローネ・デルグストでの上映が決まり、2012年10月25日、渡辺智史監督と私は山形のスローフード関係者と共にイタリアのトリノへ飛んだ。

 大量消費・大量流通の時代の中で進められてきた食のグローバリズムやファストフード化に危機感を抱くスローフード運動は、イタリアが発祥の地であり、世界各国にネットワークを持っている。年に1度の食の見本市には世界各国から出店があり、まさに食文化の多様性とその置かれている状況を、実際に食べることで確認する場といえる。見本市の1週間の開催期間には様々なシンポジウムも開催され、およそ18万人が参加するイベントだ。

 山形の畑でこつこつと伝承されてきた種(たね)の物語は、10月29日の午後、巨大な会場の片隅で約50人の観客を得て上映された。各国のブースに囲まれたにぎやかな状況の中、作品に集中してもらえるのか最初は危ぶんだが、上映終了後も観客のほとんどが残り、活発な質疑応答が行われた。また、わざわざスローフード・インターナショナル基金の会長が質疑に立会い、食のグローバル化が進む現状に鑑みつつ、この作品の中で描かれている種を守り継ぐ農家の人々の魅力と、それを支えようとする新しい自由なコミュニティの存在に希望が持てると発言し、世界中でこの映画を上映して欲しいと呼びかけてくれたのがとても印象的だった。

 また今回は4日間という短い滞在期間ではあったが、山形県高畠町出身で、現在ミラノ大学でイタリア文学を専攻されている方の紹介で、ミラノやボローニャにも足をのばし各大学の日本文化研究者と面識を得ることができた。映画『よみがえりのレシピ』のイタリアでの今後の上映については、日本文化研究が盛んな大学を拠点としながら進めていく可能性も出てきている。また、イタリアの大学生たちのドキュメンタリー映画祭がミラノ大学で毎年開催されているとのこと。今後、山形や日本の学生とイタリアの学生の作品交流の場を設けられないかという、ミラノ大学の関係者からの嬉しいお土産話もいただいた。

 1本の映画もまた、「種」である。

高橋卓也(山形事務局長)