2012-10-11 | | | ドキュメンタリー・ドリーム・ショーの厚く暑い夏 |
去る8月18日から始まりましたドキュメンタリー・ドリーム・ショー ――山形 in 東京2012(DDS 2012)は、観客や作家のみなさまのご参加やご協力を得て、5週間に渡り約100作品を上映した長く“厚”い映画祭となって無事閉幕しました。この場を借りて心より感謝申し上げます。また幾つかの変更や映写トラブルなどありまして、ご迷惑をおかけしたこともお詫び申し上げます。 それにしても2012年の夏は暑く長くもあった。まるでDDSに波長を合わせて いるかのように……。
国内外からゲストをお招きしてのイベントを数々行ったDDS 2012の夏は、YIDFF 2011インターナショナル・コンペティションで、ロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『密告者とその家族』のルーシー・シャツ監督の来日で幕を開けた。昨年の山形には体調の事情があり来形できなかったため、再会の感動も一入。7年降りに訪れた日本、山形にも足を伸ばし上映&トークや取材に参加したシャツ監督は、いく先々で温かく迎えられた。前作 『ガーデン』(YIDFF 2005アジア千波万波上映)制作中に出会ったというイスラエル側に協力する“密告者”であるパレスティナ人を主人公とした『密告者とその家族』は、日常的に暴力や困難に囲まれて生きることを強いられながらも、よりよく生きる希望を持っている人々に敬意を持って、前作同様に親密な関係を築きながら描いている。ハスラー・アキラさんやヤン・ヨンヒさんとのトークイベントにもそんなシャツ監督の姿勢がにじみ出ていた内容であった。
ドキュメンタリー・カルチャーマガジン『neoneo』の刊行記念となった共催企画「neoneo meets!!」は、トークイベント出演者の諏訪敦彦氏・石川直樹氏のみならず、観客としても名だたる方々が集まり、熱気にあふれた盛会となる。
アジア千波万波上映の『監獄と楽園』のダニエル・ルディ・ハリヤント監督も来日。到着後、急遽撮影を始めたハリヤント監督は、日本であまり知られることのないインドネシア事情に歳月を掛けた本作と対照的に、東京を舞台にした新作を作り上げる予定とか。同じ頃、特別企画「イーッカさんがやって来た!」のゲストとしてフィンランド人プロデューサー、イーッカ・ヴェヘカラハティ氏が到着。連日講演やトークに、若手作家との「イーッカさんとの対話」。6時間以上に渡るドキュメンタリー企画プレゼンと話し合いの空間は、イーッカさん・発表者・参加者の皆が、共にもの凄い集中力を発し、「対話」は場を移しつつ熱にうなされたように続き、未来を感じさせる一週間。
ほかにも、アジア千波万波、ニュー・ドックス・ジャパン、特集企画にも監督やゲストの方々がトークにご登壇くださった。毎日が山形映画祭の復習のようであり予習のようでもあり、また映画の、ドキュメンタリーの新しい発見の時でもあった。
特に「伝説の映画集団NDUと布川徹郎」プログラムで、これまでほとんどまとまってみることができなかった一連の作品群が提示したものは、現在にリアルにも通じ震撼させる何かであった。アジアにおける日本、国家を初めとする既存の「枠組み」に抗うべく、個が集まった映画製作集団が、どこまでも自力で既に名付けられた土地や国境と出会い直し、〈国境〉を越えていこうとする精神は、外交関係で綻びを見せるアジアと日本のニュースが流れる現在に対して、鮮やかに光る。こうやってNDUと布川徹郎作品に軽くノックアウトされてクロージングを迎えたDDS 2012。暑い夏は一段落し、山形映画祭2013への歩幅は伸び、参加された方々が自在な形でより熱く厚いヤマガタへと連なる予感を手にしてくれていることも、心より願う。
濱治佳(東京事務局)
※「伝説の映画集団NDUと布川徹郎」特集は、10月19日から開催される神戸ドキュメンタリー映画祭でも上映されますので、関西方面の方々はぜひ足をお運びください。 神戸ドキュメンタリー映画祭 Webサイト
布川徹郎追悼文集『燃ゆる海峡』(インパクト出版会)も10月末刊行予定ですが、特集のパンフレットも充実した内容です。 こちらにもご注目を! DDS 2012 Webサイト:「NDU特集パンフレット完成!」