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2001-06-30 | アジア千波万波の今回の傾向

「アジア千波万波」のラインアップが決まるのは1週間先ですが、既に応募も締め切り、作品の傾向のおおよその様子が現れています。

◇デジタルビデオの力

 1999年から今年にかけてのアジア・ドキュメンタリーに広く見られるのはデジタルビデオを使った映像作品の増加です。これはアジア全域に渡って見られますが、特にインド、中国、台湾、日本の作品に顕著に出ています。良い撮影機材が安くなり、今まで多かった小型のHi-8カメラから一気にDV撮影作品の増加が見られます。パソコンの普及が自宅での編集を可能にし、たとえ自分で所有していなくても友人の自宅を借りる形でノンリニア(コンピューター等を利用したデジタル編集)の映像編集が身近になってきました。

◇新しいパーソナルネットワークが動く

 バンコクでは、今年のインターナショナル・コンペティションに招待されたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が自宅で持っている編集の簡易スタジオを友人に貸し、その作品の仕上げを手助けしています。また北京の呉文光など、既に作品を作って海外映画祭で評判となった作家が、後輩たちとワークショップや上映会を企画し、若手を育てています。

 ソウルでは、韓国映画全体のいきおいを借りて、Independent Film and Video Association が中心となって公共のメディア・センターを立ち上げる具体的な準備に入っています。韓国各地で市民の映像メディアの活動を、国の行政が支援することになり、ドキュメンタリーというと反体制運動とみなされていた前政権下では考えられない変化です。

 台湾では、YIDFFをモデルに1998年にスタートした国際ドキュメンタリー映画祭が2000年に第二回目を成功させました。台湾ドキュメンタリーのサポートと推進をひとつの課題としている映画祭として、多くの台湾作品の上映 をし、作家の発表を促しています。

◇今回の傾向

 こういった動きを背景に、今年の「アジア千波万波」へは特に中国、台湾、日本からの作品が応募数を伸ばしました。中でも日本作品は1999年の86本から今年は149本に増加しました。

 さらに今回は、前回の「アジア千波万波」に招待された作家の新作の応募が数多くみられます。『紅葉野球チーム』の蕭菊貞(シャオ・ジュイジェン)(台湾)と『第三世界』のアピチャッポン・ウィーラセタクン(タイ)の 新作がインターナショナル・コンペティションに入りましたが、これ以外にも17人もの「アジア千波万波99卒業生」が新作を応募してきています。今までの傾向では優れた映像作家もアジアではフィクションやテレビの世界に流れる人が多かったのですが、継続的にドキュメンタリーに取り組む映像作家の層が確実に厚くなってきているのを実感します。

 今後は7月上旬に最終選考を行ない、前回どおり短篇・長篇とりまぜた18−19プログラムを決定する予定です。アジア全域の多様性をあらわす作品群と、「小川紳介賞」ほか賞の対象となる作家性の強い作品群の両者を上映いたします。

(藤岡朝子・「アジア千波万波」コーディネーター)