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2001-07-11 | 「アジア千波万波」ほぼ決定!

 アジアの新進作家を紹介する「アジア千波万波」のラインアップがほぼ決定しました。前例のない536本という応募総数の中から、今回招待確定が発表されるのは40本。この中で最も可能性ある作家に贈られる小川紳介賞などの賞の対象となるのは現在のところ32本です。 作品リストは次の頁へ。

〈韓国パワー〉

 今回の選考で最も突出していた国は韓国と中国でしょう。韓国から応募された30本の中には実に様々なテーマが映し出され、韓国社会の変遷を思わせます。今までドキュメンタリーというと労働運動や政治運動と密着したビデオアクティヴィズム指向の作品が多かったのが、今回は障害者や環境問題を取り上げるものや、パーソナルな作りの映像実験も含まれ、被写体へのアプローチも多様化しているようです。

 今回決まった韓国人とコリアン・オーストラリアンの作家はいずれも女性。意図して選んだわけではなかったので驚きましたが、これは韓国の映像制作の現場に明らかに地殻変動が起きていることを物語っているように思います。また、今回決まった「アジア千波万波」全体を見渡すと18本が女性監督でした。

〈中国インディーズ〉

 中国からの応募作品は、テレビ局の制作とそうでないインディペンデントの作品に大きく分けられます。テレビ番組には日本では考えられない2時間以上の長篇もあり、長期取材の成果も盛り込める中国の放送枠の自由度をうらやましがらせます。ナレーションがべったり被さった、いわゆる道徳的な「ヒューマン・ストーリー」も少なくありませんが、撮影者が観察者に徹するシネマ・ヴェリテ手法で長期取材した作品に、優れたものが幾本かありました。

 上映枠の関係上、今回はインディペンデントの若手作家の作品だけ、しかも3作のみを招待することにしました。今回選から漏れた作品には北京で覚せい剤に溺れてしまう若者たちを同世代の友人が撮る、あるいは演劇学校で用務員をする極貧だが極楽トンボの老人の私生活を撮る、といった興味深い題材の作品もありました。

〈男性の性:南アジア作品〉

 インドとバングラデシュから男性の性についてのドキュメンタリーが続出しました。南アジアの女性差別を考えるには、男性性のイメージ、男性の抱く女性像から取り組もうという、UNESCOやマッカーサー財団など助成団体の意向も影響していると思われます。このようなテーマは今回のラインアップに数本入りましたが、性欲を夢として映像的に描く作品、体は男性だがアイデンティティは女性という友人についてのインドの作品、バングラデシュの新・中流階級のティーンエージャーたちの男性観・女性観を扱った作品などアプローチはさまざまです。

〈台湾の勢い〉

 2年に一度の台湾ドキュメンタリー祭に支持され、台湾の若手は相変わらず元気です。ユーモアを交えながら、同世代を等身大に捉えたビデオ作品が特に楽しい。一方、台湾の離島をいろいろな作家に撮らせる「流離島影」というドキュメンタリー・シリーズが成功しています。台湾公共放送がスポンサーとなり、低予算ながら35ミリで仕上げた短篇作品が12本完成。今回はそのうち5本を特別招待することにしました。

〈中東地域の新作〉

 劇映画と短篇映画が現在世界で大人気のイラン。短篇映画の製作を支援するイラン・ヤング・シネマ・ソサエティから応募されたたくさんの多彩な作品を全てご紹介できず、残念です。今回は特に作家性を感じさせる2本と、招待作品として短篇を2本ご紹介します。

 トルコからは、前回『太陽はどこに?』で来日したカラジャダー監督の新作とアンカラ大学の学生作品の秀作を上映します。アンカラ大学からは今回初めて数本の応募がありましたが、全体的な技術レベルの高さとテーマの多様性が目を見はらせました。

 さらに、前回パレスティナの『モーゼからの権利証書』が上映されたエル・ハサン監督の新作は、紛争の最中の人々の日常を軽やかな一人称の視点から描いています。

〈東南アジアより〉

 フィリピンとタイから、多くの短篇が寄せられました。タイからは実験性に富んだものが、フィリピンからはジェンダーや家族の問題を扱った作品が多く見られました。山形県のフィリピン人花嫁を取材しようと来日するが行き詰まる、作者の私的ストーリー。公衆トイレで見知らぬ男性との初めてのセックスが自分のセクシュアル・アイデンティティにどう反映したかを語るモノローグ。シンガポールからは、テキストと映像の圧倒的な曼荼羅。――東南アジアでも、現在は社会正義を訴える運動より、私的テーマを扱う作品群から、確実な次世代作家が育っているようです。

〈アジア千波万波の日本作品〉

 日本の作品で今回発表するのは2作品。1999年に日本パノラマで『オード I』などが紹介された崟利子監督の初長篇と、1997年の日本ドキュメンタリーで『U・O』などが上映された関根博之監督の集大成的傑作『MAYA』です。 近く、追加発表されます。

藤岡朝子(「アジア千波万波」コーディネーター)