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YIDFF 2019 インターナショナル・コンペティション
約束の地で
クローディア・マルシャル 監督インタビュー

祈りの言葉が映し出す姉妹の溝


Q: 2人の姉妹を追ったこの映画の制作で、どのようなことを意識したのでしょうか?

CM: テーマが社会的に非常に重要なものであるからこそ美しい映画にしたいと考え、構図を決めたり、祈りの断片によって章立てしてリズムをつけたりと、今までなかったような叙述法を模索しました。文化や信仰に関わらず、どんな人たちも祈りの言葉を持っています。ロマの文化には、ある日関係性が逆転する、差別される側ではなくなるようなことがいつか起こってほしいという祈りの言葉がありました。それがあるから生き続けること、力強く前に進み続けることができるのではないか。映画の中にそれを入れ込むことで、言葉が登場人物を守ってくれるような効果を期待しました。同時に、映画を引っ張っていくひとつの仕掛けとして、言葉と映像の関係から、ある種のミステリーを作り出すことができるのではないかとも考えました。

Q: 姉妹の状況が見えてくるにつれ、家族、学校、街、国など様々な関係性が浮き彫りになってきます。監督と姉妹との関係性もまた重要だったのではないでしょうか?

CM: 私には、この映画は姉妹との共犯関係で作られたという意識があります。2004年にまず妹のほうに会い、姉には2012年に会いました。人間関係を築く上で時間は重要です。私自身にとっても重要でした。どんな人でも偏見や先入観をもっているうちは、まだそういう目でしか物事を見ていないので、真の問題が見えていません。本当のところ何が起きていて、問題は何であるのかなどを見抜くだけの目をもつために、時間が必要でした。映画で使っている映像はほとんど2012年以降に撮ったものです。妹のほうはフランスに定住する前にドイツにいたので、ドイツ語が話せます。私も同じ言葉を話せるということで、すぐに友だちになることはできました。でも、本当に彼女を理解できたと思ったのは、2012年にボスニアに行ってからです。初めて彼女がどれだけのものを背負っているのかということを知り、本当に相手を理解できたと感じました。

Q: 連絡手段や物流が発達した現代だからこそ、姉妹の溝は深いと感じました。実は私たちの中でも分断はすぐそこにあるのかと。

CM: 姉妹の一方は、一見成功しているかのようです。しかもそれは妹のほう。姉は妹の成功にインスピレーションを受けて同じようなことを夢見てしまっているという、ある種の緊張関係があります。うまくいっているように見えるから、姉のほうは多くのことを妹に求めてしまう。このロマの家族の特定の問題を丁寧に取りあげた結果、多くの観客が自分の身近な問題に引き寄せたり、彼女たちに自分を重ねたりと、自分のことだと思って観てくれています。世界的に広がりをもって観てもらえる映画を作れたと非常に満足しています。

Q: 私たちはひとつひとつの分断に対して何ができるのでしょう? 監督自身はどう考えていますか?

CM: 差別の問題で一番大きいのは、無知であること。おそらく重要なのは教育です。教育して啓蒙して、寛容さを育てていくことが非常に大事なのだろうと思います。この映画を観ることで、このロマの姉妹のことを身近に感じるような人が多くなれば、少しは分断の線を動かすことができるのではないかというかすかな希望があります。

(構成:安部静香)

インタビュアー:安部静香、楠瀬かおり/通訳:藤原敏史
写真撮影:菅原真由/ビデオ撮影:宮本愛里/2019-10-13