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YIDFF 2017 ともにある Cinema with Us 2017
被ばく牛と生きる(インターナショナル版)
松原保 監督、榛葉健(製作) インタビュー

この問題は深く終わりがない、記録しなければ


Q: 「存在が許されない命がある」という言葉は、とても悲しいですね。なぜ福島で家畜に注目され、牛を取材をされることになったのですか?

松原保(MT): 東日本大震災後2011年6月に、30年前に取材した勇壮な祭り「相馬野馬追そうま のまおい」の存続が心配になり、福島へ行きました。その時に牛の存在や農家の状況を知り、この問題は深く終わりがない、記録しなければと思いました。

Q: 家畜として売れず、置き去りにされ餓死したり、生き抜いても被ばくした牛を市場に出させないために、国は殺処分させ、苦しみながら死んでいく家畜たちの姿に、言葉がでませんでした。監督はそのような姿を取材中にたくさん見られたと思いますが、どのように感じられましたか?

MT: 生きてる元気な命を人間の都合で、それも経済的な理由だけで殺処分することに関しては、ちょっと待てよとは考えていました。本来は家畜だから最終的に、肉として食べるんですが、役にたたず売れなくなったという理由で命を絶つのは、あまりにも忍びないと疑問を感じ、それらの命の重さに関しては、多くの牧場の人たちと話をしました。

榛葉健(ST): 一昨年、大阪で僕が審査員をするヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》に、松原君がこの映画の原型になる20分の短編を応募し、グランプリを獲りました。表彰式の後、彼から長編にしたいと相談をうけラッシュを見せてもらうと、たくさんの方の証言や5年分の姿が、ていねいに取材され記録できていたんです。

MT: 原発反対と声をあげる人もいるし、声をあげられず何をしていいか分からない人もいる、そちらの人の方が圧倒的に多い。片方だけを見ると歪んだ福島の状況に見えてしまう。両方の姿を見てほしいという思いで、このような群像劇になりました。

ST: その声を受け止め、その思いを世に広める。選択するのは見る側の人たち、そこが一番大切だと思っています。

Q: 大学の研究という形でも、牛たちが生き続けられればと願います。牛の寿命は20年だそうですが、世話をしている牧場の方たちも高齢で、今後が心配です。これからも、監督はあの場所を見続けていかれるのですか?

MT: 低線量被ばくに関しては、研究者も5年程度では判断が難しいとのことで、作品内ではあまり触れていませんが、人類には有益な研究だと思うので、取材を続けたいです。農家さんも牛の寿命については、今までは家畜として飼っていたので知らないんです。まだ10年以上生きるとなると、彼らは自分の年齢を考え、諦めざるをえない時が来るでしょうね。国は殺処分をするために、所有者に同意書へのサインを求めます。それは死刑執行に同意することを意味します。今まで原発事故でこんな非常事態の経験がない、国難だというなら国は強制的に処分をしてほしい。その方が彼らは、国を恨みながらもやり直す道を選べると思うんです。サインをすることは、自分たちが殺したという負い目になり、二度と生き物を育てる気持ちにはなれない、それが一番辛いと、農家の方たちが話されていたことが印象に残りました。

(構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり、佐藤朋子
写真撮影:永山桃/ビデオ撮影:大川晃弘/2017-10-08