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YIDFF 2017 アジア千波万波
ノカス
マヌエル・アルベルト・マイア 監督インタビュー

結婚支度金という文化


Q: ダムに沈む村を撮影したときにノカスと出会ったと聞きましたが、ノカスのどのようなところに興味を持ったのですか?

MAM: ノカスは、村で農業を営む青年でした。村にはノカスの他に若い人がおらず、同じくらいの年齢だったこともあり、興味を持ちました。撮影を始めて、一緒に暮らすうちに、結婚を考えていることがわかり、今回はそれを作品のテーマにしました。

Q: ノカスが乗り越えるべき大きな壁として、結婚のための支度金がありましたが?

MAM: 結婚支度金は、結婚するうえで大きな問題です。たとえ、経済的に困窮していても、結婚の際には払うことが義務なのです。結婚支度金は、結婚時に支払わなければならないものではなく、その結婚によって生まれた子どもが結婚するまでに支払えばよいのです。分割してもかまいません。結婚支度金を払わないうちは、父親に親権がありません。男性は子どもに名前を付けたいので、頑張って結婚支度金を準備します。

Q: 作品の最後にテロップで「女性は所有物」という考え方について触れていました。これについて、監督はどのようにお考えですか?

MAM: 女性は男性側の家族のものになるという考え方があります。このことについて、私自身は反対する意見を持っているわけではありません。しかし、こういった価値観に問題があることは確かなので、みんなで話し合って解決していくために、提議したいという気持ちがあります。結婚支度金は、お金を払ったのだから何をしてもいい、という考えが生じる可能性があるというところに問題があると思っています。ひとつの民族にはひとつの文化があり、そして伝統がある。伝統というものは、無くしてはいけない。けれども、それが生きている人たちの負担になるようであれば、解決していく必要があると思っています。

Q: ノカスは、結婚支度金について、特に文句をいうことなく準備を進めていました。家族の助けがあったとはいえ、結婚支度金を準備することは、簡単なことではないのだと思いました。

MAM: ノカス自身は、結婚という出来事に直面したときに、自分の気持ちはさておいて、やらなければならないことをやったまでです。慣習に反抗するといった気持ちはなかったと思います。ただ、ノカスが結婚するとなったとき、シングルマザーのお姉さんは張り切るし、父と離婚した母も豚まで用意してくれる。複雑ですが、それでも、家族の愛の形がそこにはあるのだと感じました。

(構成:野村征宏)

インタビュアー:野村征宏、佐藤寛朗/通訳:深瀬千絵
写真撮影:櫻井秀則/ビデオ撮影:佐藤寛朗/2017-10-06