大久保愉伊 監督インタビュー
変わらないものから想像する
Q: 私は、この作品で大槌町の過去と現在の映像を見ることで「今見えているいつもの街の風景と音は、今ここにしかない」という感覚に、共感することができました。この映画は、その当たり前と言ってしまえるような感覚を、ちゃんと教えてくれる大切な映画だと思いました。姪御さんに向けてこの映像を作ったのは、どうしてですか?
OY: 「姪に向けて」という目的ができる前に、震災後僕は、まず自分の住んでいた町のかつての姿を考えるようになったんです。そして、その歴史を探るなかで、大槌町の人々にインタビューをしていました。
その時に、みんなが「子どもたちのために、何か残したい」と言っていたんです。当時は、姪がまだ生まれていなかったので、僕にはそういう実感が無かったんですが、姪が生まれたことによってその言葉を実感しました。そして、この子のために何か残してあげたい、という目的ができました。将来彼女が、盛り土が終わってかつての面影がなくなってしまった大槌町に立って、今の僕と同じように、昔の大槌町の姿を知りたいと思ったとき、この映画が、その姿を想像するための手助けになれればいいなと思いました。
Q: 『ちかくてとおい』というタイトルにしたのはどうしてですか?
OY: 「ちかくてとおい」という言葉は、いろんな距離を示す言葉だと思います。自分が今立っている街を見ていると、自分の記憶のなかの街の姿も浮びあがってくる時があるのですが、それがどんどん遠のいてしまうような、距離を感じました。だから、ここにいるのにそれはもう存在しない、という心が感じる距離や、「盛り土をした後」という実際の時間を経ての距離、さらに「未来の姪」という見る人との距離など、そういういろんな意味の距離を含めてこのようなタイトルにしました。
Q: この映画は自然がよく映されていたのですが、どういったところに焦点を当てて作っていったのですか?
OY: どういうふうに撮ろうと思っていたとかはなくて、この映画はただ、今の大槌町を僕が感じるままに撮っていって、それをまとめたものです。人がほとんど出てこないのは、人を撮ってしまうとその人たちを掘りさげてしまい、大槌町全体のことを撮るということから逸れてしまいそうだったので、人を撮ることは避けたからです。
自然をよく映しているのは、震災後に大槌町が変わってしまったのは、津波という自然の影響であり、僕がかつての大槌町の姿を想像するきっかけになったのも、自然だったので、だんだんと自然に目を向けるという姿勢になっていったからです。「震災後の大槌町」に立ったとき、海風の音や鳥の鳴き声といった自然の音を聞いたり、自然が大槌町を覆う様子を見たりして、大槌町は先祖返りしたのだ、と思いました。そう思ったときに、かつての大槌町の様子が分かるものがない状態のなかで、今も昔も変わらない自然の姿から、昔の大槌町を想像するようになったのです。
Q: 人が中心の写真の映像の章がひとつありますが、背景音が自然の音である理由はなんですか?
OY: 自然の、昔と変わらない音から、昔の大槌町の様子を考えているときに、今の震災後の大槌町は先祖が街を作る前の姿に戻ったのではないかと思いました。そう考えるきっかけになった音と、実際の昔の人々の様子の写真を混ぜ合わせることで、何か浮びあがるものがあるのではないかと思い、実験的にこのような映像にしました。見ている人に、その何かを感じ取ってもらえたらいいな、と思います。
(採録・構成:鈴木萌由)
インタビュアー:鈴木萌由、宇野由希子
写真撮影:石沢佳奈/ビデオ撮影:狩野萌/2015-10-12