下之坊修子 監督インタビュー
動かなければ、“街”は変わらない
Q: パワフルでユーモアのある佐々木千津子さんは、とてもカッコイイですね。まずは監督の上映活動“映像発信てれれ”について、うかがえますか?
SS: 40歳を過ぎ子育てが済み、ウーマンズスクールで映像を学びました。そして、「女性にしか撮れないものがある」と、映像制作をはじめました。作った映画を発信する場所も作ろうと、2003年からカフェでの上映会を行っています。
Q: 佐々木さんは、前作『忘れてほしゅうない』でも撮影されましたね。
SS: 映像をはじめた時に、“優生思想を問うネットワーク”という女性団体から、彼女を中心に、強制不妊手術をされた人のことを、世の中へ訴えたいと依頼を受けました。前作は啓発が目的でしたが、彼女の日常生活を撮影するうち、しだいに彼女を中心にした映画をつくりたいと思うようになりました。
Q: 佐々木さんは「生きていることを実感する」と、積極的に外出されますが、広島は障がいがある人も生活しやすい環境ですか?
SS: 彼女は“青い芝”という脳性マヒ者の団体に関わり長く運動し、現状になりました。彼女の場合、広島市民球場へ行く時も、車イスで行けるかと聞くと、「大丈夫じゃないの、行くの!」という発想で、自分がやりたいように動くんです。アパートも階段があって不便だろうと私たちが心配しても、自分が住みたければ住む人なんです。でも家探しは、部屋へ車イスで入るので嫌がられ断られることが多いそうです。
街や店の人たちの対応はというと、映画の中の電気店の店員のように介護者へ話しかける人が多いんです。あの場面では、佐々木さんの言葉を聴こうとしない態度に彼女が怒ったので、介護者は彼女の気持ちを理解し黙っていました。最近は、街へ出て市電に乗っても、佐々木さんに直接話しかけるようになってきています。でも、動きやすくなったわけではなく、混んでいる時は車イスが場所をとるので、乗車拒否をされるそうです。
Q: 障がい者への強制不妊手術を取材し、どう感じられましたか?
SS: 前作で実名と顔を出してくれた人は彼女だけで、まだ声に出せる状況ではないと感じました。同じテーマをとりあげた映画がカナダにあるそうですが、あまり世界的にも取りあげられていません。でも、前作を上映した時に、何人かからそういう話を知っていると聞き、実は多く行われていると分かりました。ほとんどが、手術のリスクについての説明もなく、「月経が、世話をする人に迷惑」と言われ、追いつめられる気持ちから手術を受けると聞きました。不妊手術は、出産できないだけでなく、ホルモンバランスが崩れ、手術を受けた時から更年期障害がはじまるようなものなので、体が動かなくなったり、体調が悪い日も多くあるそうです。因果関係は分かりませんが、今では首を支えなければ安定しなくなって、 状態は出会った時より悪くなっているように感じます。
Q: 介護者たちとは、とてもよい関係のようですね。
SS: 佐々木さんが、しっかり人と向き合う人柄なので、いい関係を築けるのだと思います。私たち健常者は効率を考えてしまうけど、彼女は大事に物事を見る人なので、そういう人柄に惹かれるのでしょう。彼女は奥が深くて、噛めば噛むほど味が出る“スルメ”のような人なんです。
(採録・構成:楠瀬かおり)
インタビュアー:楠瀬かおり
写真撮影:柴田誠/ビデオ撮影:柴田誠/2011-09-10 大阪にて