江畠香希 監督インタビュー
「すべての人が違う」ということを描きたい
Q: トランスジェンダーの人を撮ろうと、はじめから決めていたのでしょうか?
EK: はじめは、私自身の話を撮りたかったんですけど、自分にカメラを向けるのは簡単に方向性が決められるし、とても恣意的な感じがしたので、別の企画書を作って撮影を始めました。しかし、まったく違うものが撮れてしまう。最終的に、80時間以上あったテープの中で企画書に合うところをピックアップして作品にしました。それは結果的に、自分を説明しているんじゃないか、とも思います。
Q: セクシャルマイノリティの人の、居場所がないのだという問題を提起しているように感じました。
EK: 居場所もないと思います。男性から女性へ、女性から男性へ移行して行く間の、どっちつかずの状態にいるときに精神的に不安定になって、よりどころを求める。たとえば、それは精神科医のカウンセリングだったり、クィア学会、GID(性同一性障害)学会であったり。そういうところにいかざるをえない。とくに20代前半でトランスしたいという人は、ショーパブで働いて医療費を稼ぎながら少しずつトランスしていきます。そういう仕事はキャリアにならないし、学業も疎かになる、そして将来も見えなくなる。問題意識はあります。
Q: 監督がこの映画で一番伝えたかったことは何だったでしょうか?
EK: マスメディアに出ているおねえキャラとかニューハーフという人たちは、個性が描かれるというよりは、視聴率のために見せ物としてのおもしろさだけが重要視されて描かれているように見えます。またNHKでも病気なんだなとか、医療の問題として描かれているように感じていて、当事者から見てこのマスメディアでの描かれ方は違うんじゃないかなと思っていました。この映画の中で一番伝えたかったことは、「すべての人が違う」ということです。「女性」の中にも差異はあるし、映画の中の「トランスジェンダー」と呼ばれる人たちも考えていることが違ったりします。それは、小さな差異かもしれないですけど、実はそこには個別性があって。ジェンダーやセクシュアリティなどの二元論に陥らない多様性をこの映画で描こうとしています。見てくれた人ひとりひとりが自分の中で個別性を見いだしてくれたら嬉しいです。
Q: 個別性を認めて、ありのままの自分でいることが難しいような気がするのですが、トランスジェンダーの人も、そうでない人も、どうしたら生きやすくなるのでしょうか?
EK: そうですね、難しい質問です。私の映画を上映すると、質問してくれる人がたくさんいます。そこで手をあげてくれた人が、「私」の物語を、よく話すんですね。私は、こうで、こんな経験をしたんですとか。映画をみて自分の状況を説明したくなったんだろうなと思います。みんなが自分の話をしてくれるという意味で、私の映画がひとつの壁を突破するきっかけになってくれたことが、すごく嬉しいんです。そういう場が無いと相手のことが全然見えてこない、わからないので、そういう場が作られていくことがいいんじゃないかと思っています。
Q: 次回作は、どのような問題をとりあげるのですか?
EK: 不当逮捕の映画を作りたいです。反原発のデモで、身内に逮捕者が出たのですが、その時の状況が本当に暴力にまみれていました。こうした暴力を無くすために、今マスメディアが伝えないことを映画で発信し、マスメディアを動かしていくことが重要で、変える力を映画が持っていると私は信じています。
(採録・構成:久保田智咲)
インタビュアー:久保田智咲、渡邊美樹
写真撮影:白築可衣/ビデオ撮影:白築可衣/2011-09-23 東京にて