english
YIDFF 2011 ニュー・ドックス・ジャパン
9月11日
大宮浩一 監督インタビュー

「介護バカ」を見守りたい


Q: この映画は、1日だけのトークショーを題材にしたものですが、あらかじめ、これは映画に収めたいと考えていたものはありましたか?

OK: どういった内容になるかはまったくわからなかったので、どんな話が聞けるかと想像しつつ、予想を裏切られるのを楽しみに撮影していましたね。『無常素描』にも共通している点なのですが、言葉や文字ではない、映像でしか伝わらないものを収めたいと思っています。撮影には若いスタッフを連れて行ったのですが、彼らが出演者たちを見て何かを得てほしいという想いもありました。

 前作『ただいま それぞれの居場所』を撮影しているときに、介護の在り方が大きく変化していると感じました。それは少しずつ変化してきたものではなくて、大津波がきたようにガラッと変わったものだと。今作に登場する7名も突然変異で出てきた連中だと感じていたのですが、それを彼らのトークを聞いていて確信させてもらいました。

Q: 作品に登場する「介護バカ」の7名がひじょうに格好良いと感じました。

OK: 「介護バカ」というキーワードは僕も非常に気になった点でした。介護というと真面目でおとなしいといったイメージがありますよね。でも、彼らは自らをバカと呼べるぐらい夢中になって介護の現場でも楽しんでいる、新しい介護の在り方を作っている異端児でもあります。ある種、介護の現場がいちばん人と接する場でもあると感じているのですが、人と接する仕事って意外と少ないんです。家族制度が崩壊している今、仕事としてでも濃い家族のような関係を持つ彼らのような人が出てきたことは嬉しいですね。

 介護に限らずいろんな制度には、はみ出してはいけない枠があります。でも、それをはみ出す行為をすることによって、周りがいいなと思うこともありますよね。そうすると制度が変化していく。今の若者には制度に乗りすぎずに可能性を信じて、彼らのようにはみ出してほしい。特に映画の分野でも、映画バカと呼べるような若者がどんどん増えて、好きなようにやってほしいですし、それを見守ることができる社会を僕たち大人は作っていきたいですね。

Q: 監督は映画を作る形で彼らを見守っているといえますが、介護をする彼らと映画を撮る監督の立場の違いをどのように感じますか?

OK: 作品の中で登壇者の細川君が「介護には距離が必要」と言っています。近づけば近づくほど良い介護というのは誤解で、そこには誰かが入ってこられる隙間が必要だと。僕にはそれがスクリーンと映写機の関係にも聞こえました。介護の場合、隙間があることによって僕とあなたの関係だけではなく、そこに誰かが入ってきて大きな関係性になる。それは作り手が発したメッセージを観客という間が入ることによって、様々な解釈や考え方が生まれることと似ているのではないでしょうか。

 結果として、観客が映画を情報としてのみ受け取ってもいいと思います。ただ、作り手としては、もちろん情報の要素もありますが、それが全部だと自分の作る映画の可能性をあえて窮屈にしてしまいます。たとえ作り手にメッセージ・結論があるとしても、映画を見る観客が考えることのできる隙間を残している映画を僕は見たいですし、そういう映画を目指したいですね。

(採録・構成:石井達也)

インタビュアー:石井達也、宇野由希子
写真撮影:宇野由希子/ビデオ撮影:加藤孝信/2011-09-18 東京にて