古涛(グー・タオ) 監督インタビュー
涙や悲しみを超えたところへ
Q: 四川大地震当時や、その後のドキュメンタリー映像と、象徴的な映像が混在した実験的な作品でしたね。映像の美しさに衝撃を受けましたが、8ミリフィルムを使った理由はなんですか?
GT: 今、映像はデジタルで安く作ることもできますが、8ミリフィルム映像の肌触りや、ガタガタしている感じ、素晴らしいトーンなどが、記憶に直結しているように思うのです。8ミリフィルムから16ミリフィルムに変換する際、オプチカル・プリンターで焼き直すのですが、再撮影するんですね。その工程の中で、撮影したものをもう一度選択するという機会があります。実験的な要素としては、その時に、再構成をしていることが大きいです。1コマずつ手で作業するので、とても時間がかかりますが。
Q: 音も印象的でしたが、編集でこだわったところはありますか?
GT: 映像と音の関係は、まるでダンスのようです。音の編集は、何人ものダンサーの中から、どうやっていい相手を見つけるかという感覚に似ています。音響の制作と編集は自分でしたのですが、映像と音といっしょにダンスするように遊びました。そして50〜60のレイヤーを重ねた豊かな音になりました。音は映像より自由で、空間をもっと広げることができます。たとえば、震災後の瓦礫の中を歩く場面で、子どもたちの声がしますが、それは地震の前に子どもたちが遊んでいた、かつての音です。記憶の音で、人の感情や想像を喚起させたかったのです。このようにそれぞれの音は目的をもち、画面外の空間と呼応しています。記憶を喚起させることで、画面外の空間がどんどん広がっていくことを目指しました。また、生存者たちが録画した震災当時のドキュメンタリー映像や、そこから集めた音も使っています。最後は、海を見せずに波の音だけで、海を喚起させようとしました。
Q: 『大海原へ』というタイトルも、人々の想像を広げたいという意味でつけたのでしょうか?
GT: そうです。人々の想像を喚起する、全人類のノスタルジアの旅という体裁をもっています。四川大地震の後も、世界中でたくさんの災害がありました。生きていると、よくそういったことが起こります。でも私は、もうその災害を超えたところへ、ただの涙や悲しみを超えたところへいきたい、いかなければならないと思っています。今、世界は極めて厳しい状況にあります。人々は、環境破壊や災害、地球で何が起こっているのかということに気づき、十分に理解しなくてはなりません。みんながホームを失い、彷徨っているのです。私たちは、ホームを必要としています。海は、ホームのメタファーであり、今、人類は、海に戻る時ではないのか。災害は、そういったことを人類に警告しているのではないかと思います。
Q: 3月11日の東日本大震災後、今、日本の山形という地で、この作品が上映されることについてどう思いますか?
GT: 山形で上映されることをとてもうれしく思っています。東日本大震災復興支援上映プロジェクト「ともにある Cinema with Us」を、日本人監督に誘われて見に行ったのですが、観客の関心がひじょうに高かった。だけどその人たちも含めて、私がみんなに提案したいのは、やはり感情だけで終わらせてはいけないということです。もっと上のステージで、もっと考えるべきではないのでしょうか。もうひとつ違った視点を私は、この映画で提供します。
(採録・構成:田中可也子)
インタビュアー:田中可也子、市川恵里/通訳:慶野優太郎、渡辺一孝
写真撮影:宇野由希子/ビデオ撮影:土田修平/2011-10-11