チャン・タイン・ヒエン 監督、グエン・チン・ティ 氏(製作) 会場質疑応答
ハノイの現実を映し出す独立系ドキュメンタリーの挑戦
グエン・チン・ティ(NTT): 最初に、この映画と、私たちの新しい制作組織につきまして少しお話したいと思います。この映画は、私が2年前にハノイで立ち上げたDocLabというドキュメンタリー製作センターが主体となって製作した作品です。国や政府が管理する、社会主義国ベトナムの映画業界において、国の制度に頼らない独立系の映画制作が認められてきたのはようやくここ5年ほどのことで、その歴史はまだまだとても浅いものです。ベトナムでの独立系の映像制作に対して、外国の組織も支援をしてくれるようになり、彼らの支援で映像制作ワークショップなども行っています。私たちは当初、国立の映像制作組織やテレビ局で働いている人々を対象に、独立系映像制作の研修を行いましたが、うまく行きませんでした。彼らは、研修が終わると自分たちの職場に戻り、従来のシステムでの映像制作に戻ってしまうのです。ですので今回のワークショップでは、独立系映像制作により長く関わってもらうために、過去にそうした映像制作の経験やバックグラウンドを持たない人を集めました。この作品の4名の監督もそのワークショップの出身者であり、この映画は彼らの2本目の作品となります。
Q: 監督は、撮影の際、被写体の人々との間に、生活レベルでの物質的な違いというだけでなく、考え方など精神的な面でのギャップや「距離感」といったものを感じましたか?
チャン・タイン・ヒエン(TTH): 私たちは撮影前にリサーチを行いましたが、その際、被写体となる人々と少しずつ長い時間をかけて関係作りをし、ある種の友情関係を育んでいきました。ですので、その後の撮影の段階ではそれほど距離感を感じるということはありませんでした。現在、新興経済国として活況にわき、同時に貧富の差が広がりつつあるベトナムですが、ほんの数年前まで社会主義経済システム下にあり、すべての人が平等に、低い生活レベルで暮らしていたのです。現在の生活で言えば、私たちの暮らしは被写体の彼らよりは多少はいいかもしれませんが、もとをただせば皆同じ階層の出身です。この意味でも、彼らとの間にあまり距離感を感じませんでした。
Q: 事前に監督たちにどういうものを撮影してきてほしいかを指示されたんでしょうか? あるいは、まったく自由に撮影してもらい、編集の際にそれらに統一感を持たせたんでしょうか?
NTT: プロジェクト全体のコンセプトとして橋を取りあげることは決まっていましたが、現場で何を撮影するか、被写体を何にするのかは監督たちに自由に決めてもらいました。それらの映像群は同じ近隣地域で撮影されたものですので、お互いに何かしら関連があり、一本にまとめることができました。
Q: 独立系の映画は、ベトナム国内ではどのように上映されているのでしょうか?
NTT: 上映は大きな問題です。国から上映許諾を得るのが難しいうえに、検閲もあります。ですので、私たちDocLabは上映申請を行わず、劇場などでの一般公開はしていません。私たちはドイツのゲーテ・インスティテュートから資金援助を受けていて、彼らの施設で上映をさせてもらっています。外資施設内での上映には、政府の許可が必要ないのです。また、ギャラリーやカフェなどで少数の人向けにプライベート上映会を行っていますし、DVDを個人で販売したりしています。
(採録・構成:畑あゆみ)
通訳:新居由香/写真撮影:小助川智貴/ビデオ撮影:三浦寿葵/2011-10-10