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YIDFF 2011 アジア千波万波
影のない世界
邱涌耀(クー・エンヨウ) 監督、アブドゥル・ラヒム・ハムザ(出演) インタビュー

芸能を未来へ


Q: 私は今回この作品を見て、初めてワヤン・クリという影絵芝居を知りました。個性的な人形の美しい影の動きに合わせ、人形師の声、太鼓の音が物語を織りなしていく上演は、とてもおもしろかったです。監督はどういったきっかけで、ワヤン・クリを題材に映画を撮ることになったのでしょうか?

邱涌耀(KE): マレーシアの様々な分野の芸能の上映の興行に対して、とても多くの規制がかかっています。他の芸能でもそういった難しい状況がどんどん進んでいる中、特にワヤン・クリは政府の規制が厳しいのです。私は、その状況がすごくよく分かるので題材に選びました。ワヤン・クリ自体に焦点を当てるのではなく、人形使いの人たちの生活を取り上げることで、ワヤン・クリだけに限らない芸能の難しい状況を伝えるツールとしてのドキュメンタリーを作りました。

Q: 『影のない世界』というタイトルに込められた思いを教えてください。

KE: マレー語での原題は、「影絵の人形が影を恋しがっている(Wayang Rindukan Bayang)」という訳になります。Rindukanが「恋しい」、Bayangが「影」という意味です。元々、上演をしない限り、影は無いので、人形たちがその影を恋しがっているということは、上演されない状況を反映しているタイトルなのです。このタイトルに強い思いを込めています。

Q: ワヤン・クリのような伝統芸能文化を、後世に引き継いでいくことの重要性についてどう考えていますか?

KE: 社会の中では、やっぱり娯楽が必要であると思うけれど、政治家たちがその重要性について理解できていないですね。

Q: 映画の中で出てきた、生き残りのための方法としての現代要素を取り入れたワヤン・クリに対して、おふたりの思いを聞かせてください。

アブドゥル・ラヒム・ハムザ(ARH): 元々ワヤン・クリはタイから入ってきたものです。もし新しい形に変えても、長続きしないでしょうし、たとえば、車や、バイクや、自転車とは違って、新しく出てくる人形たちは十分ではないと思われます。政府によって、ワヤン・クリがヒンドゥー教の影響を受けているという宗教的な理由で制限されているけれども、やはり、海外で講演される際に喜ばれるのは伝統の形であるし、自分はそういった意味でずっと伝統の形を続けていきたいです。

KE: 芸能はパフォーマンスをする際に時代に合わせて変えていく必要があるだろうから、いろいろ変化があるのは仕方が無いので、そういった方法であるべきだと思っています。

Q: 10月6日に行った大久保小学校の生徒たちと、おふたりとの交流会を通じて、子どもと映画の世界との関わりについて感じたことや気付いたことがあれば教えていただきたいです。

KE: 子どもたちが、影絵の人形を触っている姿や、アニメーションを作ってくれたことなどを通して、彼らは、とても豊かな想像力を持っているし、自分たちが何か伝えたいと思っていることをストーリーとして伝えることができていると思いました。すごくクリエイティブな子どもたちの様子を見て、映像などを作ることにまったく境界が無いと感じました。

Q: アブドゥルさんも、交流会での子どもとワヤン・クリの関わりについて感じたことがあれば教えてください。

ARH: 子どもたちの様子を見てすごくうれしかったし、他の国から自分がやってきてこの芸能について紹介できたことがすごく幸せでした。もちろんマレーシアの子どもたちもワヤン・クリにすごく興味があるけれども、政治的な理由でどんどん人気が無くなっているという状況です。

(採録・構成:高橋佑吏)

インタビュアー:高橋佑吏、小林李々子/通訳:上原亜季
写真撮影:大石百音/ビデオ撮影:梅木壮一/2011-10-07