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YIDFF 2009 ニュー・ドックス・ジャパン
尺景
大西健児 監督インタビュー

20年分の眼差しの記録史


Q: この作品は、監督自身の視線の記録というドキュメンタリーである一方で、映像詩という側面も含んでいるように感じられました。監督自身は作品を作るにあたり、そういう点を意識されていたのですか?

OK: 今は、多くの人が映画を読んでいるように感じます。つまり、この映像はこういう意味があるのではないか、というように観る側はそれを読み取り、より深く理解するための努力というものを一所懸命やりながら、映画に注目しているように思えるのです。私は、本当はもっと素直に映画を闇の中で共有することを、皆さんにやってもらいたいのです。ですから、この作品もあまり難しく考えずに、目にはいってきた光という信号に反応し、耳に響く音を聞くというように、純粋に映画を闇の中で体験してほしいのです。そういう人間の眼差しが拾った20年の記録史が『尺景』という作品なのです。

Q: この作品は、監督が初めて8mmカメラを手にした17歳の頃から、今に至るまでに撮影された日常の記録の断片を、つなぎ合わせて作られています。このような構想は、以前からあったのですか?

OK: 若い頃から、何十年後かにまとめられるようなものを、ということは意識して撮っていました。けれども実際には、そういう風に仕掛けて撮っていた映像というのは、おもしろくありませんでした。それと同時に8mmフィルムというものが、もうあと何年も残らないメディアということも分かってしまったので、それならここできりがいいのでまとめよう、ということで作ったのが本音です。

Q: 今まで撮りためた莫大な素材の中から、どのように映像を選んで作っていったのですか?

OK: 具体的に何か意味の発生するようなものや、余計な要素がはいっているものは除き、単純に色味であったり形であったり模様であったり、というその部分だけで作っていきました。結果として、映画の一番原初的な「光を見る」というところにシンプルに引っぱっていけるように、なるべく単調で本当にたわいもない、そこらへんに転がっている日常の映像のかけらを中心に、作品の大きな流れは作られているのです。

Q: 全編を通して、本来のフィルム作品では取り除かれるべき傷や汚れ、現像ムラなどが見られますが、この作品では逆にそういったものから、フィルムそのものの生々しさが感じられました。

OK: 色や形と同様に、傷も映画の中の主役のひとりなのです。そこにゴミがのっていて、汚いなと思うのではなく、ゴミののった映像として認識してもらいたいのです。音に関しても、8mm独自の音を再現することにこだわっています。8mmの音は決して良いとは言えませんが、この作品に関しては、むしろ音がくぐもって聞こえにくくても、そのくぐもった音を聞くほうが大事なのです。またフィルム自体の音、音声帯を通る傷や静電気によるパチッという音も大切にしています。この映画では、ノイズも作品の一部なのです。映画というのは、どうあがいても監督がすべてをコントロールしきれない、伝えようと思っていないのに、伝わってしまう信号というものを必ず出しているのです。その部分に気づいてもらえたかどうか、『尺景』はある意味、おそろしく観る人にいろいろな感受性を強要している映画なのかもしれません。

(採録・構成:薬袋恭子)

インタビュアー:薬袋恭子、森藤里子
写真撮影:土谷真生/ビデオ撮影:田中可也子/2009-10-13