english
YIDFF 2009 ニュー・ドックス・ジャパン
蜘蛛と羽虫の記憶
大森宏樹 監督インタビュー

日常を見守るカメラ


Q: 「秋口」や「クリスマスイブ」といった季節の説明や、友人の松田さんや、恋人であるしそさんの表現などを、文字で語ることが多かったと思いますが、それはなぜでしょうか?

OH: そうですね、特にあの一言一言に意味を感じて欲しいというのはあまりなくて、リズム作りとして入れました。季節の説明も同じで、映画の中では、春夏秋冬といったものが順番ではないので、それをやんわりと伝えたかった。それと、時間が順番通り流れていないということを、表明するためのリズム作りのために入れていましたね。

Q: ラストシーンの冬の列車がとても印象的でした。

OH: あれは、新年最初の始発列車なんです。その前の年は、しそと一緒にあの駅で初日の出を見ていたんですね。でも、撮影した年はしそが忙しいと言って来なかったので、勝手なやつだと思いながら、駅に行って撮れたのが、あの映像なんです。ラストをその冬の画にしたのは、あの物語の流れで、素直に春を入れられなかったからですね。もうひとつは、反対側にむかって分かれて発車していくのも、僕としその関係性が、ああいうものなのかなと思ったんです。僕たちは、一緒にいても全然一緒のことをしてないんですよ。それぞれ別のことをしていて、別のほうをみている。そういうのもあって、この画はつかえるかなと思ったんです。

Q: 映画には恋人のしそさんの他にも、飼い猫であるオスのアポロや、友人の松田さんがよく登場しますが、どのような意図があるのでしょうか?

OH: あの映画を、自分としそのストーリーという位置付けにはしたくなかったんです。僕としその関係性の内側にだけこもってしまうと、話として説得力がないので、そこからもっと外に繋がる線を広げていかなければならない。なので、アポロや松田君が登場することで、世界に対して、開かれた間口を作れないかなと思いました。アポロはもともとしその猫なのですが、僕の家に居続けていることもあって、撮る機会がたくさんありましたからね。映画の中でも、拾って来たメスの猫に恋をして追い掛け回していましたが、すごく嫌われていて、結局ふられてしまいました。

Q: タイトルはふたりの関係性のようで、映画を見た中では、しそさんが蜘蛛のように思えましたが。

OH: 蜘蛛は、捕まえて食べてしまう補食の側で、羽虫は、食べられる側で何もできない。この関係を、僕としそで当てはめてみるのですが、認識がずれることがある。この映画を見ると、しそが蜘蛛だと思われることが多いですが、僕本人は、そうともいえないな、と思うところもあるのです。ですから、お互いに蜘蛛だったり、羽虫だったり、真相は分からないな、ということなのです。

Q: 先程、リズム作りとおっしゃっていましたが、映画を作る中でその他に意識していたことはありますか?

OH: これはいつも思っていることですが、僕の場合は、何を撮るか、どういう出来事を撮るか、というよりは、どう撮るかというのが大きなテーマになっています。田舎で暮らしている限りは、目の前で大事件なんて起きない。だからこそ、事件や事故といった壮大なものではなく、なんでもない暮らしの中でも、映画は撮れるのではないかと思って撮影しているんです。なので、この映画の中でもあえて事件が起きたカットや、珍しいものが映ったカットは切っていましたね。そのような画を入れることは、使命に反することだと思っていましたし、特にこの作品の時は強く意識していました。

(採録・構成:一柳沙由理)

インタビュアー:一柳沙由理、三浦規成
写真撮影:加藤孝信、三浦規成/ビデオ撮影:加藤孝信、三浦規成/2009-09-16 東京にて