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YIDFF 2009 インターナショナル・コンペティション
ダスト ―塵―
ハルトムート・ビトムスキー 監督インタビュー

万華鏡で覗いた塵


Q: この映画は、塵の世界を覗き込むだけではなく、塵の世界から、人間自身や、社会、また人類の未来などについても描いている作品のように感じました。主題となっている「塵」に、監督が興味を抱いたきっかけは何ですか?

HB: アメリカにいるときに、塵が舞いあがっていく様子を見て、それをデジタルカメラで撮ろうとしました。しかし、塵の動きはとても速くて、いかにきちっとそれを撮影するか、それ自体が大きなチャレンジでした。それから、塵をテーマにして映画を撮ろうと思いました。私が映画を作るときには、最初にすべてのアイディアがあるわけではありません。ひとつの映画の制作に3、4年かかるとしたら、私は、テーマを追求しながら、常に周りを見回して、新しいもの、自分の心に訴えるようなおもしろいものを、どんどん発見していきます。被写体について「もっと知りたいという好奇心」が湧いてきて、それがまた、映画をつくる原動力となります。

 また、おっしゃるとおり、この映画は、様々な観点からできている作品です。塵というものは、まるで万華鏡のように、豊かな、いろいろな側面をもったテーマです。そして映画の作り手としても、塵は非常に自由に扱えるテーマでした。他の普通のテーマだったら、構成に作り手が縛られてしまいます。どうやったら一番、塵というテーマをうまく扱えるか、そして「塵」という切り口のみで、長い時間、観客を魅了するような作品にできるか、その辺をいろいろと考えながら作りました。

 この作品には、塵という主題のもとに、様々なサブテーマが散りばめられています。私が制作の過程で発見して、盛り込んでいっている考えを、観る人に発見していただければ、それが最高の喜びです。

Q: なぜ、ドキュメンタリー映画を、フィクションのスタイルで撮ろうとしたのですか?

HB: それが私のやり方であるということです。「芸術的な作品をつくる」ということに、私は集中しています。ドキュメンタリー映画というと、まず、ただいろいろと撮影をし、事実を集めて、その中から後でどれがいいかを、撮ったものを見直しながらまとめていくというやり方があると思います。しかし人類には、もっと深い知識があるし、またいろいろな喜びや苦しみを経験してきました。人間というものは、いろいろなことを経験した、ひとつの固まりであると思います。フィクションのスタイルを含めたほうが、そういったことを、より深く映しだすことができると私は思うのですね。

 また、90分の作品なら、撮影時間は12時間くらいです。短い中に、詳細な情報をカメラに収めているわけです。ドキュメンタリー映画に、35mmのフィルムを使うということは、非常に珍しいですが、35mmを使用することで、その被写体の人格、顔、表情の変化や、まわりの環境の変化、温度の変化などが非常によく撮れます。ですから少々高価でも、より細部までをカメラに写し込みたいので、35mmを使っています。

 ドキュメンタリー映画を作るアーティストとして、もっともっと深く、より詳細に、自分の被写体、テーマについて、映画を通して訴えていく。そのためには、フィクション映画の監督と同じように、そこに努力を注いでいく必要があると思います。

(採録・構成:石川宗孝)

インタビュアー:石川宗孝、広谷基子/通訳:平野加奈江
写真撮影:林祥子/ビデオ撮影:工藤瑠美子/2009-10-12