アルネ・ビルケンシュトック 監督インタビュー
ドキュメンタリーは、私が一番好きなことをできるチャンスである
Q: なぜ、テーマをタンゴに選んだのですか?
AB: 私は大学の頃から音楽を学んでいました。1年間アルゼンチンに留学し、タンゴの魅力に触れ、曲についての翻訳をするようになりました。その経験をもとに、タンゴの歴史や背景について書いた本を出版しました。この本が脚光を浴び、後に数カ国で評価を得ることができました。また同時に、私はドキュメンタリー監督でもあったので、タンゴをぜひ“映像”としてもとらえてみたいと思うようになりました。多くの人々はタンゴといえば“赤線地帯”といったものを思いうかべます。しかし私は、なんとか違った側面で表現したかったのです。たとえば、アルゼンチンの移民の歴史や人々の過去の生き様……といったものをテーマにしたいと考えました。ただそのアプローチの方法には、迷いや悩みもありました。そんな時、ある新聞記事の写真に目がとまったのです。それは、アルゼンチンの若者がヨーロッパ行きのビザを取るために、大使館前に長蛇の列を作っているシーンでした。200年前、同じようにヨーロッパから南米を目指して移民してきた人々……。そして今、彼らの子孫が祖国へ戻ろうとしている事実を知り、私は“今のタンゴの姿”を見出すことができました。撮りたいものが明確になったのです。
Q: 映像にもストーリーにもコントラストを感じました。どのようにして情熱やリズム感を表現したのですか?
AB: 技術的な点では、見せ方・撮り方の工夫をしています。具体的には、タンゴの演奏や踊りについては、スーパー16mmフィルムを使用しました。それ以外のシーンはビデオでの撮影です。タンゴは多様化した文化が重なり合っている音楽であり、踊りでもあります。今を生きている人々が、歴史の中で困難を乗り越えるために見出した文化です。悲しみだけではなく、時には愛を語り、楽しいひとときを過ごす……。様々な感情が盛り込まれているのがタンゴなのです。老人も若者も子どもも、すべての人々の中にあるタンゴを総合的にとらえてほしいという思いで、あらゆる要素を映像で表現しました。
Q: 12曲の選曲とストーリーの関係は?
AB: 音楽監督のルイス・ボルダと一緒に、長い時間をかけて選曲していきました。ブエノスアイレスに行き、たくさんの曲を聴き、またCDを買いあさりました。ストーリーで選んだのでは劇映画になってしまいます。あくまでもドキュメンタリー映画という分野にこだわり、理論的ではなくともいい曲、バラエティーに富んだ曲を選ぼう、というのが一番のこだわりでした。
Q: “アルゼンチンタンゴの未来”を監督はどうみていますか?
AB: 未来を予測することはできませんが、私なりの解釈をするならばふたつのことが言えると思います。ポジティブな点は、タンゴが最近若者たちの間で、全国的に広がりを見せていることです。これは、私がアルゼンチンに留学していた頃には考えられなかったことで、新しい現象です。ただ、一方でネガティブな点を言えば……、若者が作り出そうとしている“エレクトリック・タンゴ”という新しいタンゴと、昔ながらの“伝統的で保守的なタンゴ”が大きくふたつに分かれていくということがあります。私は、そもそもタンゴとは「非常に保守的な音楽である」と考えているのですが……。
(採録・構成:塚本順子)
インタビュアー:塚本順子、西岡弘子/通訳:今井功
写真撮影:高橋愛実/ビデオ撮影:高橋愛実/2007-10-05