ビョン・ヨンジュ 監督インタビュー
千波万波の力
Q: 「アジア千波万波」を通してどのようなことを感じられましたか?
BY: 本当に様々なところで映画が撮られているのだと思いました。私の映画を上映していただいた90年代は、中国や日本、韓国、インド、フィリピンぐらいだったと思うのですが、今回は本当に多岐に渡っていて、いろいろな国に広がっていると感じました。国が違えば撮り方や手法も様々ですし、審査という仕事をしているというよりは、アジアの多彩な映画を見られて本当に楽しかったです。
Q: 監督も過去に小川紳介賞を受賞していらっしゃいますが、その経験は監督の中でどのような意味を持っていますか? また今回受賞をされた監督に、どのような影響を与えると考えられますか?
BY: 自分にとってはプライド、自負心ですね。自分は今、商業作品を撮っているのですが、だからといって適当なものを撮ってはいけない、この賞をもらったのだからいい加減な作品は作れない、という気持ちにさせてくれるので、自分の中の映画を作る精神の基準のようなものになったと思います。今年の受賞者の方にも、私が今話したような影響を与えてくれると思います。この賞は小川監督を記念したものですが、これにはふたつの意味があると思います。小川監督はどんな時代であっても、ドキュメンタリー映画はその時代の真実を見せるべきだという考えを、お持ちでした。それから、小川監督はアジアの若い監督に、愛情と関心を持っていました。その監督の名前がついた賞ですから、非常に意味があると思います。
Q: 監督にとってこの山形国際ドキュメンタリー映画祭とは、どのような意味を持っていますか?
BY: 学校ですね。今回は1日平均4本ぐらい見ました。みんなが「大変でしょう」といってくれましたが、そんなことはまったくありません。人はひとつのことでがらりと変化することはありません。ひとりの映画監督がいればひとつの映画のスタイルがあり、全然別のスタイルで撮るということはありません。ここで10人の作品を見たとすれば、10通りの映画のスタイルがあり、それを見たからといって自分のスタイルを変えるわけではないけれど、「こんなものもあるんだ」と思うことで、自分の方法論や撮り方を育てることができるのです。
Q: 監督が今まで見てきた中で、ドキュメンタリーというものが社会にどのような影響を与えてきたと思いますか?
BY: まず、映画がはたして社会に影響を与えうるものかということがあります。私は映画は世界を変える力を持っているとは思いませんが、世界を変えたいと思う人々に、力を与えることはできると思います。ドキュメンタリー映画は、社会において防腐剤のようなものだと思います。常に真実を伝え続けるもの、腐らないものがドキュメンタリー映画だと思います。
Q: 今後、この映画祭がどのように進んでいってほしいですか?
BY: この映画祭がどのような形であれ、生き残ってほしいと願うばかりです。この映画祭はアジアのインディペンデントでドキュメンタリーを撮っている人にとって、特に希望となるものです。もしかしたら今後、規模が小さくなるかもしれませんが、アジアのインディペンデントの映画監督たちは、この映画祭に来ることによって、今世界と会話している、世界と向き合っている映画を見ているのだ、そしてそういう映画を勉強しているのだと思えるのです。そのためにもずっと続けていってほしいと思います。
(採録・構成:広谷基子)
インタビュアー:広谷基子、高田あゆみ/通訳:根本理恵
写真撮影:清水快、海藤芳正/ビデオ撮影:清水快/2007-10-10