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YIDFF 2005 ニュー・ドックス・ジャパン
もっこす元気な愛
寺田靖範 監督インタビュー

撮れない制約の中から見えた、愛と友情の物語


Q: 主人公、倉田哲也さんとの出会いについて教えてください。

TY: はじめ話を聞いた時は、正直、乗り気ではなかったんです。熊本で撮るのは物理的にも資金的にも難しいし、脳性マヒの話ということで、原一男の『さようなら CP』(1972)と比較されるな、という思いもあって。でも会ってみると、倉田さんが「えへへへ」って笑って。撮りたい、と思ったんですね。自分と同年代を描いてみたい、という気持ちが僕にあったし、免許取得や結婚というドラマのベクトルが、良くも悪くも見えましたからね。それから「共生ホーム元気」の隣りに我々が住んで、だんだん打ち解けていった、という感じです。彼も映画がとても好きなんですね。

Q: インタビューを一切使わずに、登場人物の魅力をうまく引き出していますね。

TY: 状況や流れの中で、彼らの気持ちは、ちょっとしたニュアンスやコメントでも伝えられると思いましたから。あえて言葉にすると、倉田さんの“あきらめない” 姿勢には、とても共感しました。端で見ているとほんと危なっかしいのに、口から出る言葉は「恐るべし、首都高」ですからね。彼の抱える問題は、実際にはそんな簡単なことではないけれど、自分が映画に出ることの意味を彼はだんだん分かってきて、すべてを引き受けた上でやっていた。だから我々も、現実問題、彼らにはかなりコミットしたと思うけど、演出上は黒子に徹して、観客には、生の感じの倉田さんたちに出会ってもらったほうが良いと思ったのです。

Q: しかし結婚に反対されたり、現実の壁の高さも描かれていますね?

TY: 映画で描かれた問題の他にも、教師をしている美穂さんは、ふたりで仲睦まじく話をしているだけで、学校やPTAからそしりを受けるのでは、という葛藤があって、本当に苦しんでいた。佐藤亮司さんも、出演すること自体に反対する声があった。結果的に編集の段階まで、彼らとはディスカッションを重ねて作りましたが、ドキュメンタリーって、圧倒的に撮れない制約のほうが大きいですよね。しんどいけど、それをどう撮るかという、こちらの問題もありました。

Q: その中で、あえて共生ホームの仲間である佐藤亮司さんを映画で取り上げた理由は?

TY: 面白いじゃないですか。「精神障害の佐藤亮司です」って挨拶されて、目がもうギラギラしている。僕は彼の挫折の理由もわかるし、「愛すべきダメ男」というのがけっこう好きなんです。倉田さんが免許を取った時、彼も一緒になって喜びますよね。「私のような馬鹿者を人間扱いしてくれてうれしかとです」って頭を下げた時、僕は一番感激して、この喜びを損なわずに伝えたいと思った。彼も倉田さんに元気をもらったんですね。こうした仲間たちの友情や葛藤ももっと描きたかったのですが、男と男の友情よりは時代は愛、ということで、最終的には愛の話がメインテーマになりましたけどね。

(採録・構成:佐藤寛朗)

インタビュアー:佐藤寛朗、西谷真梨子
写真撮影:西谷真梨子/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-09-18 東京にて