キム・テイル 監督、加藤久美子 共同監督 インタビュー
日本のことを本当に愛しているなら、日本の位置を考えよう
Q: キム監督と加藤監督は、いつ、どのように知り合ったのですか?
加藤久美子(KK): もともと日本と韓国の市民団体が、戦争に関する記憶を残そうとして、シベリア抑留の問題を取り扱ったビデオを作っていたんです。そこで協力関係ができて、一緒に何か作れるんじゃないか、となりました。今年に入ってから、団体から依頼されて来たテイルさんと会って、じゃあ一緒にやろう、ということになりました。
Q: 言葉の問題があったと思いますが、どうやって自分たちの考えをお互いに伝えましたか?
KK: 日韓のコーディネーターが、それぞれいるんですね。そのふたりがずっと間に入って、メールでのやり取りの通訳をしてくれたり、いろいろ調整してくれました。
Q: この初めての共同制作はどうでしたか。成功したと思いますか?
KK: 成功したと思いますよ。お互い言葉がわからないのに、何とかここまで作れたんですから。
キム・テイル(KT): 同感です! 大変な「峠」は多かったと思います。国家というものが解決することができなかった問題を扱っているのですから。作っている過程が大事なんだ、とお互いに確認しました。お互い協力しあって、ずいぶん立派な結果になったと私は思っています。
Q: 撮影の過程なんですが、韓国と日本で別々にしたのですか、それとも一緒に撮影したのですか?
KK: できるだけ、一緒に撮るようにしました。ただ、韓国や日本での追加のインタビューや撮影は、それぞれが担当しましたが。
Q: おふたりの考え方を聞きたいのですが、映画というものは、政治的な権力がある、あるいは政治的な活動だと思われますか?
KT: 単純に考えるならば、政治を変えていく力はある、と私は信じています。しかし、映画が多くの人を簡単に変えることができるとは思っていません。
KK: 私も、映画は政治を変える力があると思っています。私は、人は感動した時に何かをしたくなる、何かをしようとする、と思っています。ですから、感動するようなものを作っていきたいです。人の気持ちを動かし、人々に考えてもらいたいのです。
Q: 国を愛しているから参拝に同意するという考え方や、靖国神社は軍国主義の神社ではなく、日本の独立を守っている神社だ、という考え方に対して、どういうふうに思いますか?
KT: 靖国神社が必要だという人たちにインタビューした時に、名越教授という方が「あなたは韓国の国民墓地に行ったことがあるのか?」と言ったんですね。私が「ない」と言ったら、「この売国奴」と言われました。国を守るという場所に対して礼儀を払わないという点で、売国奴と言われたのだと思います。靖国を大事にするとか、崇拝する姿というのは、ある面から見れば、日本の愛国心を強化している。でも、他の面から見れば、葛藤と対立を生み出すんじゃないかと思っています。
KK: 名越教授は「それぞれが愛国心を持っていればいいんだ」と言います。でも私は、愛国主義と愛国主義は必ずぶつかって、戦争になるんじゃないかと思うんです。靖国神社というのは、結局、天皇のために戦った人しか祭っていない神社です。その神社を守るというのは、本当に平和な世の中を作っていこうというよりは、天皇を中心とした「ニッポン」という国を守ることだと思います。日本のことを本当に考えたら、他の国と仲良くしなければいけない。アジアの中で、日本がどういう位置なのか、どうやって周りときちんと話ができるような国になっていくのかと考えることは、日本のことを愛していれば必要だと思います。
(採録・構成:ジェン・ウェイティン、猪谷美夏)
インタビュアー:ジェン・ウェイティン、猪谷美夏/通訳:山崎玲美奈
写真撮影:常陸ひとみ/ビデオ撮影:市川悠輔/ 2005-10-12