ヴォーン・ピーリーキュン 監督、ジャスティン・ミーランド 氏(製作) インタビュー
窓を開くこと
Q: 船の解体場の映画を作ろうと思ったのは?
ジャスティン・ミーランド(JM): 3年ほど前にグリーン・ピースがアランに反対する大きなキャンペーンを行い、それをインドと西側のメディアが大きく取り上げました。海岸にたたずむ壊れた船の写真をいくつか見たのですが、非常に鮮烈で、これは映画を作るのにかっこうの素材になると思いました。
Q: 写真が映画制作のきっかけということですね。
ヴォーン・ピーリーキュン(VP): まあ、そうですね。映画を作る時は、ある意味、アイデアよりもイメージを求めるものです。カナダの写真家、エドワード・バーティンスキーがバングラデシュの船解体場、チッタゴンを撮った大きなすばらしい写真を発表しています。それをウェブで見て、これは魅力的な場所だと思ったのを覚えています。ええ、それが主な動機です。
Q: 主に労働者に焦点を当てていたようでしたが。
VP: この映画から必ずしも見えてはこないのですが、そこには膨大な数の区画化された土地があり、これは政府が貸し出しているのですが、船を投資として買った地元の実業家が使っています。彼らはその土地に船を上げ、主にスラム街で生活する大量の労働者を使っています。大きな船ならば、解体するのに300人もの労働者が必要で、彼らはその分を確保しているわけです。
JM: しかし、もとはと言えば西欧の船会社が船を売ったのに、彼らは登場しない。彼らは誰ひとりそこにいないわけですし、なんの責任も負わない。それが大きな問題なのです。なぜなら、船のガスは時々爆発したり、またアスベストが労働者たちを毒していきます。そもそもの所有者である大きな船会社は労働者の完全な安全を確保するには高くつくので、解体しなくてはいけなくなる1年前に、転売してしまうのです。それで、彼らは見て見ぬふりをして「私たちは安全で環境に配慮している」と主張をするのです。
Q: 船の大きな塊が落っこちるシーンは息をのむ映像でしたが、労働者たちが小さな配管を叩いているシーンが心から離れません。
VP: 最初に私たちはそこに広がる風景に打ちのめされました。けれど、そこにいればいるほど、大きいものに対しての小さいものの動きがおもしろくなってきました。最初の編集からワイドショットで全景を見せることに抵抗を感じ、大きな船の映像にはしませんでした。(映像に)船はなく、人々だけです。
Q: 10分という長さにおいて、非常に詩的な手法をとりましたね。このようなアプローチにしたのは?
VP: 一番簡単な答えは、10分の作品の制作費をもらったからです。当初は長編作品にしたかったのですが。
私たちのアイデアは、何かへと続く窓を作って開き、また閉じることでした。10分見た後で、何となく見えるけど、それが実際に何であるかはわからない。しかし、これをきっかけに興味を持ってもらえばいい。BBCのように、ドキュメンタリーはよくなにかについて物語ってくれますが、私たちは意識的にそれとは逆流する動きをとりました。むしろ長編映画のように、あの場所についての雰囲気、気持ち、感覚を取り上げたかった。これらを通じて、より近くなれればいいのです。一方では恐ろしいほど汚らしい搾取が行われている土地で、人々はひどい職に就き、お金が支払われるわけでもなく、文字通り徐々に殺されるような噴煙の中で働いている。しかしもう一方で、あの場所は視覚的に魅力があり、同時に畏怖の念を抱かせるようななにかがあるのです。
(採録・構成:山本アン)
インタビュアー:イアン・チュン
写真撮影:加藤初代/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-10-08