直井里予 監督インタビュー
彼らの“生きる輝き”に出会って
Q: 直井さんとタイ、そして2組の主人公たちとの出会いを教えてください。
NR: 大学時代、アメリカで出会ったタイの友人に、自分の生き方を改めさせられたところがあって。「サバーイ(心地良い)」って言葉があるんですけど、彼らはどんなに忙しくても、心に余裕を持って生きていた。それで卒業して、とにかく彼らの住んでいるところを見て、勉強したいという気持ちで、タイに住みました。その後TVの番組で、北タイに住む日本人のNGOのレポートを作った時に、ポムとアチュンの2組の家族に出会ったんです。
一目惚れでした。サッカーをしている彼らの中には、生きる喜びがあって、とても輝いていた。その輝きを伝えたくて、番組の取材が終わった後も、残って取材を続けたんです。でもはじめから、あんなに話してくれたわけではないですね。病院に一緒に通ったり、カメラを抱えて家に行っても撮らずに帰ったりで、家の中に入るまで、1年以上かかりました。撮ったものを少しずつ彼らに見てもらって、なんとなくわかってきてもらえたのかな。
Q: 日常生活を、ひじょうに丁寧に捉えていらっしゃいますよね?
NR: エイズの恐怖心と向き合いながら、どうやったらその輝きが出てくるのかなと思って、彼らの生活を見ていたら、1日1日、その瞬間瞬間を丁寧に生きることの繰り返しなんですね。そういう日常生活が、村の中でも受け入れられている。ある時ポムが「人は誰でも痛みを感じて死ぬんだよ」と言った。その言葉を聞いた時に、生きるって痛いことなのかなって思ったんですよね。もともと人生は痛い、という考え方をしていて、痛いのが当たり前だから、逆にポムは心穏やかに生きられるのかなって。
Q: しかし厳しい現実も、カメラの前で展開されていきますが。
NR: HIVって悲しい、そんなステレオタイプをくつがえすために作ろうと思ったのに、ボーイに急に症状が出て。しばらくカメラを廻せずに、お見舞いや、彼の家に通い続けているうちに、私の中で死に対する価値観が崩れてきた。ボーイのひたむきに生きている姿を見てね。別にエイズという病気があるわけじゃない。抵抗力が減るだけだから、死ぬのは普通の病気なんですよ。そう考えるようになってから、エイズに対する恐怖心が和らいでいった。ただ、症状が出てくると、ボーイは村人との交流がなくなって、父母と3人だけの生活になっていった。今回、食べることを集中して撮っていたんですが、人と人とのふれあいって、食べることと一緒で、生きるエネルギーなのかなって。それを奪うというのは、死ねと言っていることと同じなのかなと。それは自分の中で感じました。
Q: 編集に1年かけたそうですが、その時に心がけたことは?
NR: まずは、彼らの生きた3年間の時間の流れと空間を、そのまま表現したいなと思って。けれどタイには四季がない。ふたつの家族とふたつの季節で、『ツーシーズン』でも良いかなと思ったんですが、今日を生きているから明日がある、という希望的な意味で「そして明日へ…」という言葉をタイトルに込めました。全部で117時間も撮っていて、私が描いたのは彼らの一部に過ぎないけど、自分自身に対しても、何かの時にふっと思い出せるような映像を作りたかった。メッセージ性の強いものって、すぐ忘れられるじゃないですか。次の作品も、最初からテーマを決めて何かをやるというよりは、輝きに出会った時に撮り始めたいと思っています。
(採録・構成:佐藤寛朗)
インタビュアー:佐藤寛朗、石井玲衣
写真撮影:石井玲衣/ビデオ撮影:加藤孝信/ 2005-09-12 東京にて