アルベルト・エリンフス 監督、オウジェニー・ヤンセン 監督 インタビュー
“時の流れ”を撮る
Q: なぜライン川のほとりにある村を、撮影地として選んだのですか?
AE&EJ: 理由はふたつあります。あの村は、ほぼ毎年洪水に見舞われている、オランダの特徴をよく表している土地です。それがまずひとつの理由です。もうひとつは、他の土地に比べて、時間がゆっくりと流れているからです。
オランダでは今、手当たり次第に開発が進められています。この土地のように、昔ながらの風景をとどめている場所は希になっています。初めから、その土地に知り合いがいたわけではありませんが、撮影を続けていくうちに、村人たちと親しく付き合うようになりました。9月に上映会を行い、2週間後に日本の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映すると伝えると、村の人たちは驚き、喜んでいました。
Q: “時間”をとらえようとしたのはなぜですか?
AE&EJ: 映画は、時間を基軸にした芸術です。映画であるからこそ、フィルムに刻みつけることで、時の流れを映し出すことができます。だから私たちは、映画を撮る時に、時間というものにとてもこだわりを持っています。特に今回は、ひとつの場所を定めて、限られた場所の中で時が流れていくところを撮影しました。
Q: 7年もの時間をかけて撮影されていますね。監督から公式カタログに寄せていただいた言葉に、「時間を観察し、つかまえる」という言葉がありましたが、選んだ映像に何か基準はありましたか?
AE&EJ: 撮影にかかった年月としては7年ですが、フィルムの量自体はそれほど多いわけではありません。また、実際に作品に使ったのは、全体の映像の10%ほどです。時間というのは、2種類あると私たちは思います。自然の時間と、人間の時間です。自然の時間、言い換えれば季節の流れというのは、春が来て、夏が来て、やがて秋が来て冬が来るように、毎年巡って、輪になっていますよね。それに対して、人間の時間は、一方向に過去から未来へと、直線的に流れていきます。たとえば、洪水が起きる度に、標識を立て替えている映像がありますが、人間は、その年その年で学んだことを活かして、その次の年には、それまでとは違った行動を起こします。そうした自然と人間の上に流れる時間のコントラストを、表現できるような映像を選びました。
撮影した年月の中で、徐々に木が伐採されていき、鉄道のレールが敷かれ、そして地下鉄が開通するという、人間の進歩というものを印象づける出来事があった 7年目に撮影を終えました。実は、川が渦を巻いているシーンの「渦」には時間の流れというものを象徴させています。毎年毎年、何度も繰り返される自然現象と人間の行動を撮り続け、断片的に組み合わせていくことで時の流れを表現しています。他のドキュメンタリー作品をご覧になって気がつくと思うのですが、ナレーションが多用され、言葉によって多くが語られています。私たちとしては、映像をご覧になっている観客のみなさん自身がそこから様々な印象を感じとって欲しかった。だから、わざと通常のドキュメンタリーにあるような、ナレーションやボイスオーバーは廃しました。
(採録・構成:奥山奏子)
インタビュアー:奥山奏子、塚本順子/通訳:斉藤新子
写真撮影:阿部明子/ビデオ撮影:小山大輔/ 2005-10-08